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今は額に触れた、ということは本人が集中してくれているということだろう。この集中力をいつも保つことができれば、こうも失敗だらけにはならないはずなのだが。
「まあ、向いてないのは俺も同じだ。特に料理とか絶対できねえな」
甲冑の留め具を嵌めながら言うガロン。
「俺がまだダークナイトに進化する前……ダークウォーリアーだった時のことだ。一時期、一族の炊事担当をやったことがあってなあ。あんまりにもシチューが煮えないものだから、ダークフレアの魔法で鍋ごと焼こうとしちまって」
「……それは、やる前からやばいってわかりそうなもんですが」
「だよな!今ならそう思う!……もしあれをやらかさなかったら、シチューが爆発してみんなの晩飯が抜きになることなんかなかったんだよなああああ!」
あの時は大変だった、とガロンは遠い目をする。なんせ、闇一族の小さな集落に消防車が十五台も急行したのだから。――爆発したキッチンから出た火は存外小さくて、すぐに消火できたから良かったけれど。
「まあ、元々闇の一族は細かい作業が苦手で、脳みそ筋肉な奴が多いのは事実だ」
小手の確認。きちんと嵌っている、問題なし。
「うちの先輩も、既に何人も魔王様に雇ってもらってて、みんな前線勤務なわけだしな」
剣のチェックも怠りなし。刃は今日もぴっかぴかだ。よし、準備完了。
「ダークナイトってのは、闇魔法と剣術を併用できるから……戦力として、結構いい仕事できるって話だ。俺ぁ、ダークナイトの中でそんなに優秀ってわけじゃあねえんだけどな。まだまだ魔法の腕も未熟だし、剣術だって俺より強い奴はごまんといる。それでも、魔王様のために戦いたい気持ちは誰にも負けねえ。だったら、鍛錬あるのみだ」
「それは、僕も同じですよ」
うんうん、と頷くエル。
「ただ、配属先によっては……忙しすぎて、個人の鍛錬の時間があまり取れないかもしれないんですよね。勇者はもう、はじまりの町に出現しているみたいですし」
「そうだな。まあ、あとは実戦で鍛えるしか……ん?」
ふと、引っかかりを覚えてガロンは首を傾げた。
そういえば、自分は魔王様からこう聞いている――魔族に抗うことができる勇者なる存在は、ある日突然はじまりの町に現れるものなのだと。それも、女神様の手によっていきなり降臨するものだというのだ。元々の町の住人が勇者の力を手に入れるとか、何か不思議な力に目覚めるとか、訓練していた者が勇者の資格を手に入れるとかそういうのではないらしいのである。
ならば、勇者とは一体どこから来た存在なのだろう。
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