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第14話 孤立死事件1
時刻は既に17時になっている。
「工藤さんありがとう。竜崎課長は?」
隆司は尋ねる。
「今は4階で部課長会議中です」
緊迫した感じで工藤は答えた。
「仕方ないな。鈴木、一緒に来い。孤立死事件に対応する」
隆司は鈴木に命じた。
「分かりました。しかしブルーハイツは管理物件では無いのでは?」
真面目な鈴木らしい質問だった。
「そう、ブルーハイツは老夫婦が自主管理して、ウチは入居者の仲介だけをしている。だからウチに管理を委託することを、アドバイスしていたんだ。いずれにしても貸主さん達だと手に余るし、管理部の仕事でも無いからな。だからこそ俺たちがいく。鈴木もこういうことは実地で覚えておいた方が良い」
隆司の言葉に鈴木は従い、2人は営業車で物件に到着した。
そこに居たのはおろおろとしている貸主の老夫婦だった。
事情を聴くと、201号室の前を通ると、どうも異臭がするというクレームを貸主が聞き、それで部屋をノックしても反応が無く、電話も出ない。貸主が合鍵でドアを開けると、腐敗した入居者が見つかり、そして青空エステートに電話をしたというところだった。
「こんなことになってしまって、一体どうしたら良いでしょうか……」
貸主の老婦人は震えながら、隆司に尋ねた。
「私達が全力でご協力します。鈴木、まず警察に電話するように。今回は貸主さんが合鍵で部屋に入ってしまったので、警察の事情聴取がありますが、それは正直に答えてください」と隆司は答えた。
鈴木はすぐに警察に電話をし、パトカーと消防車、救急車が到着した。
警察の許可が無いと部屋には入れないので、しばらく警察は貸主のご主人から詳しく事情聴取をした。
それがようやく終わり、隆司と鈴木は部屋に近づく。
先に警察官と救急隊員が入り、死体を確認し、死体を死体用の袋に入れて、警察が運んでいく。
事件性は無いと警察が判断し、それから隆司と鈴木は部屋の中に入った。
隆司は孤立死事件の現場の経験がある。だからと言って慣れれば良いというものではない。死の苦しみと言うものを嫌が応でも感じさせる、濁り腐った臭気がそこには充満していた。
「うっ……」
鈴木にとっては初の体験だっただろう。思わず口を押えた。
「相当苦しんだ上での病死だろうな」と隆司は部屋の状態を観察した。
部屋には腐ったチーズの様な死臭がこもり、部屋のあちこちに吐血と思われる血がべっとりとついていた。
隆司は冷静に窓を開けると、持ってきた契約書から連帯保証をしている賃貸保証会社と、緊急連絡先に連絡を取った。
遺留品の片づけは、緊急連絡先と賃貸会社で話し合った上で行われるだろうと隆司は考え、血の量から考えて、床下や壁もはがしてみる必要があることを貸主に説明した。
貸主である老夫婦は青ざめた顔で話を聞いていたが、隆司は「我々、青空エステートが全力で協力しますからご安心下さい」と励まし、老夫婦も落ち着きを取り戻した。
一通りの事を隆司が行っていると、スマホが鳴った。蘭からだ。
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