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第16話 タカちゃんと1
6月になって、私はタカちゃんと名古屋港水族館でデートをすることになった。私の「会いたい」というチャットにタカちゃんは応えてくれた。
マッチングアプリを、男と適当にセックスするだけに使っていた私は、なぜかタカちゃんに興味が湧いた。
それがセックスをしたかったのかは分からなかった。
ただ、いつも優しいチャットを送ってくれるタカちゃんに、私は会いたかった。
男なんて皆同じ。私の身体を使って性欲を処理して、通り過ぎていく。もしくは支配しようとする。
だけどもタカちゃんには、なぜかそう感じられなかった。
水族館前の待ち合わせ場所で待っていると、タカちゃんはすぐに来てくれた。
6月で梅雨入りとなって小雨の降る日だけども、事前に写真を送ってくれた通りに、タカちゃんは短髪で中肉中背の普通の男性だった。そして爽やかな感じがした。写真でもそう感じていたけど実際に会ってみるともっと魅力的に感じた。
「アイちゃんかな? 待たせてごめんなさい」
タカちゃんはそう言って謝った。待ち合わせ時間には遅れていない。ただ私が早く来ただけ。それなのにこの人はとても優しい。
「ううん、大丈夫。小雨振っているから早く入ろ」
私はそう言って、タカちゃんと一緒に水族館の中に入った。
水族館の中は、初めて見る魚ばかりだった。
悠然と泳ぐイワシの群れ、何を考えているか分からない目で漂っているダイオウイカ、無害だけども直接触ったらいたそうな大きなカニ、イソギンチャクとクマノミのきれいな共生。
私が普段生きている世界とは全く違う海の生物の世界がそこにはあって、私はひとつひとつがとても綺麗で、魅せられた。
私は25歳だけれども、今まできちんとしたデートをしたことがなかった。
せいぜい、セックスをする前に居酒屋かファミレスで食事をするぐらいしか経験がなかった。
タカちゃんは私と一緒に水族館を見て回り、馴れ馴れしく私に触れようともしないけど、私からは離れない様な微妙な距離で、私についてきてくれた。私が「……綺麗だなあ」と感動すると、同じように「うん。すごく綺麗だね」と共感してくれた。
こんな風に共感してくれる男性もいるのかと、私は驚いた。
私の様な何の魅力も無い女のいう事を受け止めて共感してくれるのが、タカちゃんだった。
水族館は午後から入ったので、夕方になってタカちゃんとはレストランに入った。
ハーブを使ったレストランが水族館近くにあって人気店らしい。
ハーブを使ったケーキや、ハーブティーもあり、料理もハーブを上手く使って美味しくしているという評判どおりらしく、夕方でもお客さんは多く、店員さんも忙しく動き回っていた。
私がテーブルに座る時も、座りやすいソファ席を勧めてくれたり、タカちゃんはこんな時でも本当に優しい人だった。
こんなに優しくしてくれるなんて、タカちゃんは私とセックスするのが目的なんだろうか。
優しくしておけば、誘いやすくなるということなんだろうか。
レストランで、私は季節のパスタ、タカちゃんは牛スジカレーを食べ始めた。
食べながら私は、いつも聞きたいと思っていた事を、口にした。
「タカちゃん」
「うん?」
「私のことって、どういう女だと思う?」
これは私が今日一番聞きたかったことだった。でもなぜだろう。
私が私のことをよく知っているからだろう。手が小刻みに震えてきた。
「アイちゃんか……」タカちゃんは水を一口飲んで口を開いた。
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