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第17話 タカちゃんと2
「とても素敵な女性だと思うよ。仕事でも色々大変そうだけど、こうして時間をつくって誘ってくれて嬉しかった。チャットも真剣に答えてくれるし、魅力的な人なんだろうなと思っていたけど、こうして会うと尚更そう思ったよ」
タカちゃんは、人をそう言って褒める事が自然に出来る人なんだろうなと思う。
私の知っている男は、馴れ馴れしく「お前綺麗だね」とか言ってきて、セックスに連れ込もうとする男ばかりだった。
それでも私は良かった。必要とされるのだから。
でもタカちゃんはそんな気はなさそうだった。
「アイちゃんと今日過ごせて楽しいな。アイちゃんはどうして今日誘おうと思ったの?」
タカちゃんは、最後に残っていたカレーを食べて、質問して来た。
「……タカちゃんがどういう人か、知りたかったから」
それは私の本心だった。でもまだどういう人なのかは正確には分からない。ただでもこの人は温かい。そう感じた。
手が震えて来た。私はこの人と話をしていて良いのか。
私はこの人と話をしていて「果たして釣り合うのか」と私はたまらず、ワインを注文した。
「ごめん、どうしてもワインが飲みたくなって」
私は飲まなくては、酔わなくてはやってられない。そんな気がしていた。
ワインを大量に飲んで酔うと私はタカちゃんと一緒にレストランを出た。
時間は18時になっていた。
6月で雨が本格的に降って来た。タカちゃんは大き目の傘を持っていたので、それに二人で入った。
「今日は楽しかったよ」タカちゃんは言った。駅に向かって酔った私を支えながら向かっているところを見ると、この人は私を駅に連れていくつもりなのだろう。
この人は、私が今まで関係を持ってきた男達とは全然違う。温かくて優しい。
(それなら、そんな男を帰して良いの? もう会えないかも知れないよ)
心の中でもう一人の私が聞いてきた。頭が痛い。酔ったせいもあるけど頭が引き裂かれる様に痛い。
(男の扱い方なら、知っているでしょ? どんなまともな男だって、最終的にすることは同じでしょ? それが早くなるだけのことでしょ? 魅力のない私だから今いかなくてどうするの?)
「ちょっと待ってタカちゃん」
私はタカちゃんの手を引いて、路地裏に入った。
人通りはそこになかった。タカちゃんは私が酔って吐きそうになったのだろうかと思ったのか、顔が心配そうだった。
私は、タカちゃんの唇に自分の唇を重ねた。そのまま舌を入れてタカちゃんの口の中を自分の舌で愛撫してあげた。
「抱いて……」
私はそのまま、タカちゃんを抱きしめて、タカちゃんの身体をまさぐった。
タカちゃんは驚いていたみたいだった。
「でも会っていきなりって言うのも」タカちゃんは言葉ではそう言った。
でも私はタカちゃんが性的に興奮しているのは分かった。
「タカちゃんはやっぱり温かい人だよ。だから好き。このまま帰りたくない。だから抱いて欲しいの。……何回も言わせないで」
タカちゃんはきっとまともな人なんだろうと思った。今までの男だったら喜んでラブホに行きたがっただろう。だからこそ私はタカちゃんを逃したくなかった。
でもいきなり迫って引かれるかも知れない。その思いも私の泥酔した頭にあって、私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
でもタカちゃんに抱かれたいのは、本当だった。
そうすれば私の凍り付いた様な人生も少しは変わるかも知れないと思った。
タカちゃんも、女が何度も体で迫ると弱かった。
それは男の習性だろうから、それでタカちゃんの価値を私は下げたりしなかった。
問題は、タカちゃんは酷い早漏だった。ラブホに入り交接をしてから30秒で射精してしまった。気持ち良さが少しはあったけど早すぎて話にならなかった。
タカちゃんはそれが悩みで、治療薬を飲んでいると言っていたけど、本人が一番ショックを受けていた。
タカちゃんはナイーブなのだろう。復活もせずに落胆して下を向いたまま、ずっと黙っていた。小刻みに手が震えていた。
「なんでこんななんだろうね……」
そう言って、私はため息をついて、ラブホ代をテーブルの上に置いてお先に出て行った。
せっかくまともそうな男性とこうして出会えたのに、傷つけてしまったみたいで、私は泣きながら笑うしかなかった。傘は置いてきたから冷たい雨が私を濡らしていた。
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