第18話 ブルーハイツその後

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第18話 ブルーハイツその後

 6月となり、孤立死事件の対応に追われ、壁紙の張り替え、血の付いた箇所の部品の交換、腐敗臭をとる特殊清掃の手配をし、隣接している部屋の入居者にも説明をしていた隆司は、貸主夫妻から、ブルーハイツの管理を青空エステートで行って欲しいとの依頼を受ける事になった。  もう自分達のような老夫婦では、対応が出来ないと。  今までは自分達で何とか出来ると思っていたが、一生懸命に頑張ってくれた一条さんを頼りにしたいという事だった。  蘭はそれを聞いた時、隆司の働きが正当に評価されたと感じ、誇らしいと思うのと同時に、自分の事の様に嬉しかった。  単に営業目標を達成しただけではなく、隆司が成長していること、頼りになることを実感として感じたのだった。 「一条君、ブルーハイツの管理契約、頑張ったわね。おめでとう」  蘭は心から嬉しそうに隆司に声を掛けた。 「竜崎課長、ありがとうございます。孤立死事件の件があったにせよ、こうして管理を任せてもらえるとやはり嬉しいです」  隆司は笑顔でほほ笑んだ。  ブルーハイツの契約書類を貸主から預かって来たので、事務スタッフにに全てコピーをする様に隆司は伝えた。  不動産屋を仲介にしておらず、貸主と借主で個人で契約を行っている部屋もある。  こうした部屋の場合は、契約書が市販のもので古かったり、身分証明書を契約時に取得していないケースもあるので、状況を把握することから始めなくてはならない。密かに滞納がかさんだままで放置されているケースもあり、管理契約を結んでからもやることはいっぱいあるという状況だった。  そんな訳で、隆司は今日は契約書のチェックを入念に行っており、気が付いたら19時になっていた。  アドバイザー2課には、今は隆司と蘭しかいない。  蘭は蘭で、光助が何かを仕掛けてくる可能性について考えながら、振り返りを確認して、課の誰にロールプレイをするかなど含めて予定を入れていた。  しかしそろそろ遅い時間ではある。  「一条君、どんな感じ?」  蘭は隆司を心配しながら、声を掛けた。というのは確かに契約書のチェックをしているものの、時折隆司がつくため息が気になったからだ。 (一条君ってこんなにため息をつく癖はなかったと思うけど……)  蘭としては、隆司の事が妙に気になるようになってしまったせいか、隆司の心理状態も気になるのだ。 「そうですね。3ヶ月滞納をしている人が一人いますね。貸主の友人みたいです。あと70歳を超えている人達が4人いるので、これらは見守りサービスを依頼して、孤立死に備えた方が良いですね」  隆司もチェックしていて、疲れもあったのだろう。少しかすれた声で、蘭に答えた。  「そうね。亡くなる前に手を打った方が良い。ねえ一条君。今夜って予定とかあるの?」  蘭は真面目な顔をして尋ねた。 「いや、特に無いですけど……。たださすがに今日は疲れたので、もう帰ろうと思いますよ」  隆司は率直に答えた。声には疲労感が混じっていたが。 「それならさ、せっかくのブルーハイツ管理受託のお祝いも兼ねて、夕食でも一緒に食べない?」  蘭にしてみれば、勇気を出したお誘いだった。 (もう少し一条君と一緒にいたい。何なんだろうこれ……もしかして)  隆司からの返事を待ちながら、蘭は鼓動が早くなるのを感じた。
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