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第19話 蘭と隆司1
隆司は誘われた事は嬉しかったらしい。表情には疲れの色が濃かったが。
「竜崎課長、ありがとうございます。そうですね、それならご一緒させてください」
という事で、蘭と隆司は、以前に蘭と本田が話した帰り道にある和風居酒屋にいる。
以前と変わらず、賑やかな店内にお客さんの声と、店員の声が響いている。
ラーメン屋だと食べ終わったら出なければならないし、蘭はそれだと寂しいと感じたのだ。
出来るだけ長時間、隆司と話をしてみたい。それは蘭の率直な感情だった。
「ここのところになって、すごく成長して、課を引っ張ってくれてありがとうね」
蘭はレッドアイ、隆司は生ビールで乾杯し、刺身の盛り合わせで舌鼓を鳴らした。
「これも本当に……竜崎課長が丁寧に指導したりしてくれたおかげですよ。本当に新人の頃は迷惑をかけてしまったな……」
隆司は、苦笑しながら答えた。
「良いのよ。芽が出なくて辞めていく人もいる中で、それでも真面目に指導を受けて、今の一条君がいるんだから、それは成長の証だと思っていいの」
蘭はそう言いながら、自分でも熱っぽくなっているなと感じた。
「そうなんですか?」
隆司は驚いた様に答えた。
「そう。現実問題として営業……もといアドバイザーって女性が向いている場合が多いのよ。話を聞く力があるし、観察力や洞察力、共感力とかね。一条君の同期の男性って、今残っているのは少ないでしょ?」
蘭は真面目に隆司の目を見て話す。もっとも蘭としては少し酔っているところもあってか、少し鼓動が早くなっていた。
「確かに、女性だと結構残ってますけど、男は同期は減ってますね。なんででしょう」
隆司は、二杯目のビールを注文し、口を付けながら話した。
「私ね、多分あれって、女性上司から教えを受ける事に抵抗というか、プライドが許せなかったんだと思う」
蘭は神妙な顔をして言った。確かに隆司が青空エステートに入社した時、新人を教える役目は蘭だった。
蘭のロールプレイを隆司は注意されながらも真面目に行い、振り返りも真面目にしていた。
しかし他の同期の男性は隆司ほど熱心ではなく、蘭の指導も真面目に聞いている様には見えなかった。
結果的に目標達成する事が出来ず、同期の男性達は辞めて行った者も多い。
反対に女性社員は残り、業績も上げている。
「なるほど、自分があまりそういう反抗心みたいなものが無いので気付きませんでしたよ」
隆司は、本当に初めて気付いた。そう言えば何か不満の様なものを同期の男達が言っていたが、仲間に入れてもらえなかったので、隆司は知りようが無かったのだ。
「だから一条君は残って、今業績を上げているんだと思う」
ホタテの刺身を食べながら、レッドアイを飲み、少しため息をつきながら、呼吸を整えて蘭は口を開いた。
「あ、ありがとうございます……」
隆司は笑顔で答えたつもりだったが、疲れがたまっていたせいかどもってしまった。
蘭は無言でレッドアイを飲み、少し考えた。
(本当に言いたいこと、聞きたい事じゃないでしょ。私は何を言っているの)
自分自身に呆れながら、蘭は深く息を吸って、口を開いた。
「個人的な質問をしても良い? 嫌だったらいいんだけど」
「はい? 答えられる範囲なら良いですよ」
隆司は、蘭の質問の角度が気になった様だ。今まで蘭に個人的な事を聞かれる事などなかったからだ。
「一条君って、今付き合っている人とか、好きな人っているの?」
蘭は意を決して尋ねた。本当に勇気がいる事だった。
隆司は、蘭の言葉を聞いて顔面蒼白になった。
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