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第3話 翌日
翌日となり、蘭はいつも通りに出勤した。足取りは少し重かったが。
社内用のアプリを電車通勤しながら確認する。
蘭が課長を務めているアドバイザー2課のスタッフは、昨日の自分の行動を振り返りツールに入力してそれを提出する。
そのためスタッフが朝起きて一番最初に行うことは、この振り返りツールに入力を行うことになっている。
・昨日は何があったのか。その中で何が一番印象に残ったことなのか。
・良いことであれば、お客様からどのような感謝の言葉を頂いたのか。どのような商談を成立出来たのか。誰に助けてもらったのか。なぜそれが成功したと考えられるか。
・失敗したことであれば、どうしていればそれを防ぐことが出来たのか。ここから何が学べるのか。この貴重な機会をどのように生かすのか。
蘭は自分の振り返りも入力した上で、部下の振り返りにも目を通す。
さすがに光助の事は書けなかったので、通常の仕事であったことを書いた。
不思議なことに、この振り返りは継続していくと、部下がどのようにお客様と信頼関係を作ったり、喜ばれたりしているのかが分かる。
そして一番重要なのはこの振り返りをすることで、部下が成長していることが蘭にも分かるのだ。
アプリではその振り返り以外に、今日行う事の予定なども出す。
そしてこのアプリの情報は蘭以外の上司も閲覧が出来るため、社内の個人の成長を、上位の朝日奈部長や、社長なども確認することに大きな意味があった。
その振り返りには遊び心もあり、スタッフ同士で、いいねなどのマークを押すことも出来、これを利用することで朝のミーティングを行う必要がない。
蘭は、光助の記憶に邪魔されながら、通勤電車の中で、同じアドバイザー2課の振り返りに目を通すことに集中しようとした。
アドバイザー2課は、合計10人おり、アドバイザーが7人。物件入力などや事務のサポートを行うスタッフが3人いる。
アドバイザーとは、はっきり言えば営業である。ただ営業と言う言葉を使う事を、今の営業部長である朝日奈部長は去年辞めさせた。
朝日奈部長は、今年49歳になる女性である。二人のお子さんがおり、今は二人とも名古屋大学の学生である。夫を交通事故で亡くしてから、最初は事務系のパートとして青空エステートに入社した。その後に営業のセンスが非常に高いことが分かり、実績を次々と塗り替え、今の地位にいる女性であり、蘭の尊敬する上司である。
(朝日奈部長……光助の話を聞いたら、どんな顔するんだろう)
筋を通す人だからこそどういう反応をするかが、蘭には想定できず、憂鬱な気分のまま蘭は振り返りを確認していた。
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