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第6話 朝日奈部長1
「失礼します」
蘭は、緊張しながら、アドバイザー部部長室に入る。
部長室は綺麗に整頓され、デスクとパソコン、その他宅建業法や民法含めて必要と思われる書籍棚。大きなソファとテーブルがある。そして花瓶のバラが目を引いた。
デスクには48歳とは思えない、40代前半くらいに見える柔和な表情で上品な女性が座っている。
髪型はミディアムのレイヤーでまとまり、薄紫色のスーツを着ており、それがまた均整のとれた体型にあっていた。
(朝比奈部長……変わってない。私の目標の人)
朝比奈部長の柔和そうな顔と、これから自分が告げなければならないことのギャップに蘭は胸が痛くなりながら、朝比奈部長と目を合わせた。
「こうして二人で話すのは久しぶりね。竜崎課長。それとも昔みたいに蘭と呼んだ方が良いかしら?」
朝比奈部長は、何か察知しているのだろう。少しでも蘭の緊張状態を解くように、柔らかい笑顔で提案した。
蘭はその気遣いが本当にありがたかった。
「ありがとうございます。それならば、蘭でお願いします」
ふっと、力が少し抜ける感覚が蘭はした。
「蘭、それならソファに座りなさい」
朝比奈部長は、蘭を座らせてから、自分も腰掛けた。
「何があったの?」
朝比奈部長が声を掛ける。相変わらず優秀な人だと蘭は感じた。
「……あまりまどろっこしい事を言うと、朝比奈部長の時間を奪ってしまいますから、まず結論から言います。私がお付き合いしている、スマイル精神病院の伊集院光助さんとの交際を辞めるつもりで、まず報告に来ました」
シミュレーション通りに考えた事を、蘭は伝えた。虚飾も嘘も朝比奈部長なら必要ないと思ったから、正直に伝える。
「……なるほど。確か彼の方から付き合いたいという事で付き合ったと先月は聞いたわね。もちろん別れるのは蘭の自由。この場合の問題は彼が弊社に管理物件の管理を委託しているところね。何か問題でもあったの?」
神妙な顔をして朝日奈部長は尋ねた。
「……性的同意も無く、犯されるように性行為を強要されました。昨日です。まだ別れることは伝えてませんが、これから伝えるつもりです」
光助との屈辱的な性行為が頭の中にフラッシュバックする。それにどうにか耐えながら蘭は答えたが、相手が信頼している朝比奈部長なだけに、気持ちが出てしまったのだろう。涙が次々とこぼれて止まらなかった。
「性的同意もなく……」朝比奈部長は沈痛な面持ちで、目をつぶり、黙って蘭の話を聞いていた。そして悲しみがこもった目を開け、口を開いた。
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