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灼けつく海
冬だった。
お互い、気持ちに蓋をしきれなくなっていて。
寒いね、とか、わざとらしく囁きあって、ひたりと寄り添っていた。
夕べの浜は、冷えるのだ。だからくっついて暖をとる。
腕に腕をからめて、刺すような塩辛い冷気から逃れるように、肩に顔をうずめる。
大好きなひとの匂いがした。
みじろぎをする。そっと、上目をつかって見た耳は赤い。夕ばえ、なんかじゃない。だって、マフラーの下に続く白いうなじも、真っ赤だ。
「夕焼けが、綺麗」
「うん」
海が、あかあかと灼ける。遠い波が、びかびかと光っている。唐紅の太陽は、きっと潮の中でも燃え続ける。
松の木が、頭上でざわめいている。
おねがい。好きだって、言ってきてよ。
来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ
藤原定家
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