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僕だけの味方①
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ある住宅、子ども部屋。ロボットのオモチャが散乱している。ドアは内側から鍵が閉められ、誰の侵入も許さない。ドアの外から声がする。
「大丈夫か?今日も出てこれないか?お父さんもお母さんも心配だからな。お友だちも来てくれるし、みんな待ってるから……お前のタイミングでいいから……じゃあ仕事行ってくるな。」
足音が離れていく。部屋の中には机に突っ伏す男子が一人。手には画用紙に描いた絵が。
「知らないよ……分かんないよ……助けてよ……僕の……僕だけの……」
絵を握りしめる。
「『ビスマルク』。」
『上田颯人』
『僕が考えた最強の味方』
『・搭乗型二腕二足歩行決戦兵器「ビスマルク」を召喚する、性能は以下の通り』
『・回転式多銃身機関銃搭載(段数無限)』
『・誘導型パペットミサイル搭載(段数無限、チャージ要)』
『・アーム格納式ブレード搭載』
『・超電磁砲搭載(チャージ要)』
**********
東京、亀戸。
ジュエリーショップ「IRYS」が新規オープンしていた。店の前に警備員が複数人立っているが、その中に銀髪長身の女性が一人。
「ねぇお嬢ちゃんたちぃ、何がほしいの?指輪?ネックレス?何でも買ってあげようかぁ?」
女の子二人組をナンパしていた。
「えぇ〜?そんなこと言われてもぉ〜?」
「お姉さんお仕事中じゃないの?いいの?」
「そんなもの、宝石より大事なものがココにあるじゃあなぁい?ねぇ?」
一人の髪をそっと撫で、耳たぶに触る。
「キャ〜〜〜♡」
「あ、いいなぁ〜!お姉さん、私もぉ〜!」
「はいはい、順番ねぇ。」
「百さん?」
千尋がイヤホンから声がけする。
「二人はこの後どこ行くのぉ?」
「ご飯食べに行きます〜。」
「じゃあアタシもついていっちゃおうかなぁ?」
「「いいよ〜!」」
「百、さん?」
千尋の声が渋くなる。
「ご飯食べた後は?」
「「決めてな〜い。」」
「じゃあアタシが知ってるイイトコ、連れてってあげようかぁ?」
「えぇ〜?どんなとこ〜?」
「それはねぇ……」
人差し指を唇に当てて、
「イケナイトコ♡」
「「キャ〜〜〜♡エッチ〜〜〜♡」」
「……こんのスケコマシィィィ!!!」
周りがキーンとするほど張り裂けた声がイヤホンから響いた。
「……耳いったいわよぉ、千尋ちゃん。冗談だってぇ。」
「本気だったでしょうが?!さっさと女の子帰して!仕事してください!」
「でもぉ……」
「帰せ!」
「分かったわよぉ。」
しぶしぶ二人組とお別れして、警備の持ち場に戻った。今日百尼はジュエリーショップの警備バイトにきている。
「ナンパくらいさせてよぉ。一日中突っ立ってるの暇なのよぉ。」
「仕事ですよ。文句言わないでください。店長に言いつけますよ。」
「いけずぅ。あの店長お堅いんだものぉ。きっとネチネチ嫌味言われちゃうわぁ。」
「……私がどうしたって?」
「のわっ?!」
驚いて振り返ると、スーツを着た小柄な男性が立っていた。店長である。
「あぁ〜店長〜どうも〜。ご機嫌いかがですぅ〜?」
「機嫌悪いねぇ、君のせいで!」
店長が百尼に詰め寄る。
「勝手に持ち場を離れて!けしからん!それだけならいいが、いや良くはないが……とにかく、さっきからお客様にちょっかい出して!変に人だかり作って迷惑なんだよ!」
「ほら、怒られちゃいましたよ。」
「は〜い、気をつけますからぁ……」
「いや、もういい。君は結構!」
「はぇ?」
「念のための異能対策と思って君を呼んだが……とんだ杞憂だったようだ。そればかりか店の迷惑にしかならない。もう帰ってくれ!」
店長は怒り心頭の様子。
「えぇ〜?そんなぁ〜。お金はくれますぅ?」
「誰が払うか!帰った帰った!」
シッシッと手で払われる。百尼は諦めて制服を返却し、帰路につく。
「ったくもう、このアタシをタダ働きさせるたぁ、あの店長ロクな目に遭わないわよぉ。」
「真面目に仕事しないからですよ。このままだと他の評判も悪くなっちゃいますよ。」
「それがアタシなのよぉ。アタシの魅力が分かる人間だけ依頼すればいいわぁ。」
「またそんなこと言って……」
ジュエリーショップを後にする。その少し離れた人混みの中に、フードを深く被った人物がいた。しばらくジュエリーショップを見つめる。そして、
「……『ビスマルク』、来て。」
轟音。突如響き渡る衝撃に人々が逃げ惑う。
「「「キャアアアーーー!」」」
「な、何ですかぁ?!」
「何よぉ、もぉ。」
音の主、風圧と砂煙の中から現れたのは、鈍く輝く漆黒の機体。二本の足で大地を踏みしめ、二本のアームが横に伸びる。見上げるに五メートルはある全長に、完全武装された外装。右肩には巨大な砲塔がそびえている。半透明のガラスで覆われたコックピットには人が着席しているのが見える。
「ロ、ロボットですか……?」
「これも異能かしらねぇ。本当に何でもアリなのねぇ。」
機体は機械音を立てながらジュエリーショップに向き直り、そのまま突っ込む。
「ぎぇぇぇ?!」
警備員を蹴散らし、店長が慄く。店に侵入した機体はショーケースをぶち破り、次々と器用に機体内に入れ込んでいく。
「なんだぁ、随分な見た目の割にコソ泥なのねぇ。」
「見てる場合じゃないですよ、助けないと!」
「……むぅ。」
百尼が渋い顔をする。
「百さん?どうしたんです?」
「だってぇ?アタシクビにされちゃったしぃ?それなのにお節介焼く必要あるのかな〜ってぇ?」
「えぇ?そんな拗ねないでくださいよ。人道的に助けた方がいいでしょう?」
「人道で飯が食えるならいいわよぉ。でもなんでボランティアであんな危なっかしいヤツと戦わなきゃいけないのぉ?それはおかしくなぁい?」
「それはそうかもですが……」
「でしょお?別料金払ってくれるならいいけどぉ。」
「なら聞いてみたらどうですか?払ってくれるかどうか。」
「そうねぇ。」
せっせと宝石を回収する機体の横をこっそり抜け、店長の傍まで行く。
「てんちょ、店長?」
「ひぃぃぃ?!何だぁ?!」
「ほらごらんなさぁい。あんなの来ちゃったじゃあん。アタシをクビにしちゃってぇ、後悔したんじゃなぁい?」
「た、頼む!助けてくれ!このままじゃ店が、私の夢がぁ……!」
「助けてぇ〜?でもぉ、タダってわけには、ねぇ?」
「払うから!料金払うから!」
「でもでもぉ、さっきと同じ料金じゃああんなのと戦うなんてぇ、とても頑張れない、かも、ねぇ〜?」
「いくらでも払うからぁ!早くなんとかしてくれぇ!」
「よっしゃ!じゃあ十億ねぇ!約束だからぁ!」
「そんなの無理に決まってるでしょ……後でちょうどいい金額請求しておきますから。」
百尼は機体に近寄り、
「ちょっとそこのお兄さぁん?」
「?」
機体が百尼の方を向きかけた瞬間、
「うぉぉぉらぁぁぁ!」
思い切りタックルをぶちかます。
「うぁっ?!」
機体が店の外に弾き出される。
「何だ?人間か?」
「生身の人間よぉ。そんなオモチャに隠れちゃってまぁ、恥ずかしがり屋さんねぇ。」
百尼はくいくいと指を曲げる。
「そのご立派な機械装甲、アタシが裸にひん剥いてあげるわぁ。覚悟してちょ♡」
「……殺す。」
ガトリングが回転を始めた。
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