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《光と影》
魔界の王からだとは思いもしなかった業火は隣で羽ばたいているペレと共に驚きと疑念を募らせた。
「なんで魔界の王様からなんだろう……? もしかして処罰される、とか?」
「そんなたわけがあるか」
「じゃあなんで王様から招待状が来てるのさ? それに日付は……明日だ。守らないと魔界の獣どもに貴様の肉を食わすって脅しも出てるよ! こわっ!」
魔界の王からの手紙をリビングで開いては恐れおののいている業火にペレは何事もないような姿勢を見せる。
それから羽を震わせて「メシはまだか!?」などと言い出すではないか。緊張感がまるでないお馬鹿な不死鳥に業火は盛大な息を吐いた。
怒るに怒れないのが彼特有の優しさか。
「はぁ~……。じゃあ、野菜が手に入ったからポトフでも作ろうか。それで、明日の朝に王様のところに行こう」
「卵を入れろ! 卵はゆで卵が良いぞ」
「ポトフにゆで卵なんて入れないけど……。まぁいいや、じゃあ卵入りポトフね」
業火はキッチンへと向かい、王の意向はなんだと思いながらゆで卵入りのポトフを作るのだ。
翌朝。業火はペレに突かれて起床した。痛みで泣き出しそうだが、ペレは尋常ではないほど焦っていた。
「窓を見ろ! なにやら馬車と魔界の者が来ているぞ!」
「えっ……、なん、で?」
カーテンが開け放たれているので窓を覗き込むと、豪華な馬車と巨大な牛人間と豚人間が業火を見て礼儀をした。
どういうことかはわからぬが、王に命じられて来たのだろうと業火は踏んで急いで身支度をして髪を結い上げて、ペレを抱き寄せて外へと出る。
業火が飛び出して出てみれば、牛男と豚男は敬礼をした。
「業火様ですか。お待ちしておりました」
「さぁ、乗って行ってください。王がお待ちです」
「は、はぁ……」
よくわからぬが歓迎はされていると考えた業火はペレと共に馬車に乗り込んだ。牛男が業火と対面する形で座り、豚男は馬車の操縦を任されていた。
牛男は緊張した面持ちであった。それが業火にはわからずにいた。
「あの……、なんで俺、王様に呼び出しを受けたのですか? なにか悪いことした覚えもないと……言いますか、なんて言うか」
「あなた様は忌避だと言われている金目を持っていらっしゃる。人々からは忌み嫌われるとは思いますが、――今の王にとっては必要不可欠なんです」
ペレと共に首を傾げると牛男は揺られる馬車のなかで鼻息を荒くする。
「今の王は魔界を任せられぬほどの大病を患っております。その後継人として……業火様を選んだのです」
「……うっそでしょ」
「我ではないのか? 我は不死鳥だぞ!」
「ペレうるさい。……息子さんはいらっしゃらないのですか?」
すると牛男は「ご子息はいらっしゃいますが、王はこのようなことを告げています」人差し指を立てて話し出した。
「光と影がある者、――人格が二つの魂で構築されている者を魔界の王とする、と」
「えっと、それはどういう?」
牛男は息を吐いた。
「その者は生まれついた金色に輝く黄金の瞳を宿す若き王……、王はこのようなことを口走っているのです」
業火は自分が忌み嫌われている金目であることは承知しているが、人格がもう一つあることを知らないのだ。
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