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《息子》
広大な廊下の窓にはステンドグラスが散りばめられていた。魔界にも太陽のようなものがあるので、その光でステンドグラスは咲き乱れている。
奇麗だな、などと業火は感じていた。風菜が大きな扉の前で止まる。
「こちらが食堂です。どうぞ」
開かれた室内には長いテーブルがあるのだが、一人の青髪の青年がコーヒーを飲んでいた。どうやら朝食は済ませたようだ。
風菜は恭しく礼をする。
「封水様、こちらが王様の後継人になるかもしれない方、業火様です」
「あぁ、君か。……ふ~ん。変わった髪型に金色の瞳、か。父上がますます喜びそうな風貌だな」
封水と呼ばれた青年は業火より遥かに背が高い人間であった。しかもかなりのイケメン。だが風菜と同じで瞳は透き通るように青い。これでは金色の瞳とは言えない。
業火は一応軽く礼をした。
「初めまして。業火と言います。そしてこの、抱えている鳥がペレです。その……俺の唯一の友達、です」
「友達ではない! 主だ、馬鹿者!」
「友達じゃないならご飯はおあずけね」
「……業火の友達だ、よろしく」
しゅんとするペレを擦り、テーブルの上に置いてある食卓の前にペレを座らせた。ペレは合図があるまでまだ食べない。
こういうところはいい子だな、そう感じる。
「ほぉ、不死鳥が友達ってわけか。これじゃあ俺が王を継ぐことはない……か」
「いえいえ、そんなわけではないとは思いますけど……」
カップを置いて業火を去り際に肩を置いた封水は耳元に寄せた。
「勝手にしゃしゃり出るなよ、嫌われ者。俺が王族にふさわしいんだからな」
「は、はぁ……」
小声で釘を刺されどこかへ行ってしまう封水に業火はそこまでダメージが少なかった。魔界でも罪人を見るような目で見られてきた人間なのだ。
業火は幼い頃から傷ついて生きてきたのである意味、鋼のメンタルなのである。
「封水様、カッコイイですよね~! 容姿端麗、成績優秀で、しかも鼻にかけないところが魅力的と言いますか!」
「そう……だね。かっこいいなとは思うよ」
先ほど憎まれ口を叩かれてうまく反応ができないが、風菜が抱いている封水のイメージを壊してはならないと思い、業火は相槌を打った。
ペレが痺れを切らして待っていた。
「あっ、ごめんペレ! すみません、もう頂いちゃってもいいですか? ペレがよだれ垂らしているので……」
「た、垂らしとらんわ、うつけ者!」
「あっ、ごめんなさい! どうぞどうぞ、頂いちゃって下さい!」
業火も席に着いてペレと共に手を合わせていただきますをする。朝食のメニューとしてはオムレツにサラダ、かぼちゃのポタージュにポークソテーであった。
あまりにも美味しいので無我夢中で食べ進めていく業火とペレに風菜がデザートであるイチゴのパンナコッタを置きながら話を進めていた。
「朝食が終わりましたら、王の所へ来てもらうことになっています。王は大病を患っていて動くことがなかなかできないので、寝室に行っても良いと牛男様からご命令が下されています」
「このオムレツうまっ! ……って、王の所へ行くんですか?」
「はい。だってそのためにこちらへお連れしたんですから」
にっこりと笑む風菜に業火は冷や汗を掻くがペレはポークソテーに舌鼓であった。
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