4人が本棚に入れています
本棚に追加
【2018/4/14 くもり】
引き取った幸せのなる木は少しずつ大きくなっていった。数日に一回、アメリカで過ごしている羽奈に写真を送る。物理的に離れても、確かに俺たちは繋がっていた。俺たちの関係は変わらない――そう思っていた。
だけど、この一ヶ月ほど羽奈からの返信がなかった。メッセージへの既読すらつかない。
何かあったのかとヤキモキする中、着信。表示されたのは080から始まる番号と羽奈の名前だった。
「羽奈! 大丈夫か? そっちで何かあったのか?」
返事はない。ただ、小さく息が震える音が返ってきた。
「羽奈?」
「りょ、遼。あのね」
羽奈の声が震えている。スン、と小さく鼻をすする音がした。
「私、このままこっちで暮らすことにしたから」
「……は?」
「こっちでいい人見つけて。結婚するの。私、幸せだから。もうそっちには帰らない」
「いや、待てよ。意味わからないって」
「……さよなら、遼」
そのまま通話が切れる。慌ててかけ直すが、何度やってもつながらない。
あまりに突然で、一方的だった。部屋にはただ幸せのなる木だけが残されている。
俺は一体何のために、この木を育て続けてたのだろう。何が、幸せになる木だ。
根腐れしかけていたとは思えないほど太くなった幹に手をかける。
こんなもの、もうなくなってしまえばいい。
「……っぁ! ああっ!」
それ以上、何もできなかった。
この木には羽奈との思い出ばかりが詰まっていて。この木を見ていると、いつの間にか胸の内側で育っていた想いを突きつけられて。
こんな風になってしまった今では向き合っても辛いだけのはずなのに。
手からスマホが滑り落ちてガタリと音を立てる。その弾みで明かりが灯り、表示されるのは現実を突きつける着信履歴。
物理的に離れていても気にならなかった距離が、今は果てしなく遠い。
――いや、待てよ。羽奈がアメリカにいるなら、どうして。
最初のコメントを投稿しよう!