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三年生は、六月を過ぎるともう受験対策だ。
理系と特進はこの月までには大体の科目の履修が終わり、その後は試験勉強になる。毎日が少しずつ加速し始めているようだった。
土日も塾に通うようになり、駅前の塾に朝から夕方まで居る。外に出るのは、弁当を持って来なかった時か帰る時だけだ。夏休みになったら、きっと毎日がこうなんだろう。
空を見上げると、三日月が綺麗。お腹が空きすぎて霞んで見える。
「ね、お腹空かない?」
里奈がえ~?と気の抜けた返事をしながら振り向いた。うん、里奈も相当疲れている。
「そうだね……家まで持ちそうにないなぁ」
「うちらの降りる駅って、お店少ないよね」
「うん。ここで食べていこか」
二人できょろきょろしてたら、駅ビルの向こう側の角にラーメン屋が見えた。『えびす屋』と言う名前の、どこにでもありそうなラーメン屋だけど、私達にとっては天の救い。お腹が空きすぎてよろけながら、何とか辿り着く。順番待ちの人も居ないし、とにかくすぐにラーメンにありつけそうだ。
「らっしゃい」
店の扉を開けた瞬間、元気な声が何方向からか飛んできた。夕ご飯時にお客が八割は少し寂しいが、それでもこれだけお客が入るのなら、味の水準はクリアしているのだろう。
「何名様?」
「二人です」
「カウンターでいい?」
「はい!」
食券機で醤油ラーメンを買った。里奈は味噌なので、ちょっと味見させてもらおう。
カウンター席に並んで座らせてもらい、食券をカウンター台に出した。
「これでお願いします」
「ありがとうございます」
その声に、あれ、と思って顔を上げた。目の前のカウンター向こう側に、例のよく私を見ていた、あの変な男子が立っていた。
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