春から初夏、光る

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 空腹にラーメンはご馳走で、私と里奈は物も言わずにがつがつ食べた。すると、またカウンターから店主らしきおじさんが、顔を出してきた。  「君たち、友喜の友達?」  彼の名前は知らないが、一応頷いておく。里奈も合わせて頷いた。  「これ、店からの奢り。友喜と仲良くしてくれてありがとうな」  出されたのは餃子の皿だった。確か5個入りとあったはずだが、6個入っている。里奈の事も考えてくれたんだろう。  「「ありがとうございます!」」  彼の事を変な子と話してたのが本当に気まずいが、ここは取り合えず、忘れるしかあるまい。  餃子もジューシーかつ皮がカリカリふわふわで美味しくて、お腹いっぱいになって私達は店を後にした。 *************  店を出て、駅に向かう途中で、後ろから大きな声が聞こえてきた。  「なあ、おい、さっき餃子食べた人!」  びっくりして振り向いたら、あの子が走って来た。他に何人かのおじさんやお姉さんたちが振り向いたので、きっとあの人達も餃子を食べたんだろう。  彼が頭のバンダナを外すと、黒くて真っすぐの短い髪が額に落ちてきた。  ああ、あの子だ。    「えっとさ、さっきは食べに来てくれてありがとう」  「あ、いえ、こっちこそ餃子ありがとう」  里奈は私の顔を見て、相手の子の顔を見て、そうっと一歩後ろに下がる。何で下がるんだ。やばい、どきどきしてきた。  「えっと、それで、ちょっと聞きたいことあってさ」  「う、うん」  里奈が何かを期待している顔で、両手で口を押えている。本当にそれやめて。緊張する。  「そっち、ずっと俺の事見てんじゃん。何? どういうこと?」  え。  「三年上がってすぐ、クラス分けの時だろ。教室移動の時とかにも見てるし、極めつけは今日。俺があの店で働いてるって誰に聞いたの」  「え、いや、……それはこっちの台詞。ずっと見てたのそっちじゃん。私は、別に見たくて見た訳じゃないし。今日だって偶然。里奈とぱっと探して入ったの」  「……そうなんだ」  彼は期待外れだったのか、すぐに興味をなくしたみたいだった。  「じゃ、用事はそれだけだから」  そう言うと、また駅前の人の波を器用に避けながら、ラーメン店へ走って戻っていってしまった。後ろを振り返りもしない。  「……わーお。あの子、ちょっといいじゃん」  里奈がにやにやしながら私の顔を覗き込んでくる。  「何がいいの? あいつ、失礼じゃん。だって、本当にあいつがずっと見てたから」  「いや、どっちが先なんてもう関係ないんじゃない?」  「やーめーてーよー」  目が合ったの、あいつも気付いてたんだ。気付いてたんだ。  そう。あの子犬のような目、気付いたら強い光のまっすぐな目だった。子犬じゃなくて狼だったのかも。  「あ、ねえ、あの子戻ってきたよ」  里奈が言うので顔をあげると、あの子が走ってきて、私に何かを突き出した。    「あげる。無くさないでな」  そう言うと、また走って帰ろうとする。その何かを見ると、あのえびす屋のお食事500円割引券の束だった。  なんだ。良い奴じゃない。嬉しくなってお礼を言おうと彼を呼び止めた。  「何?」  「あ……いや、ありがとう」  「うん」  そう言うと、彼は口だけ動かして何か言った。それを見て、里奈が吹き出した。  「何、何笑ってんの」  「だってさ、あの子今何言ってたと思う?」  「何、何よ。私見えなかった」  「ストーカー、たいほ、だってさ」  私が駅前に響き渡る声で「お前もな」と叫んだのは言うまでもない。  
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