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夏休みを目の前に、三者面談がある。
両親には成績はいつも伝えてあるが、実際希望の大学に行けそうかどうか、面と向かって言われるのはやっぱりドキドキする。
「成績はまあ順調ですよ。B判定なので、あとひと踏ん張りしたら行けそうですね。他のいろいろな活動もしているし、この調子で油断せずいきましょう」
思わずホッと息をはいた。
先生に褒められたからって、受かるとは限らないし、まだまだB判定だ。人によっては遅いくらいだけど、とりあえず受かれば後は何とかなるだろう。
横の父をちらと盗み見した。
実の父親を盗み見って、我ながら変な言い方だと思う。でも、実際のところ父と面と向かって話すのは苦手だ。嫌いではないのだが、父との会話はいつも同じ言葉、同じ文章の繰り返しだ。
もう面談も終わったのだから、一緒に帰る必要性もないし。
「お父さん、お母さん、私友達のクラスに寄ってから帰りたい。先に帰ってて」
本当はそんな予定は無かったけど、嘘ついた。お父さんはうんと言っただけ。お母さんは、いいわよ、と頷いてくれた。
親と別れて、実習棟の方へ渡ろうとした時、廊下の端の教室から誰かが出てきた。一番奥だから、八組だろうか。背が高くて、真っすぐの黒髪を刈り上げた男の子。
あの子だ。確か、名前は確か、ユウキって呼ばれてたような気がする。塾の帰りに寄った後、会うのは久しぶりだ。後ろから出てくるのは、お父さんだろうか。背が高くて、うちの親と同じスーツ姿だけど、カッコいい。
ユウキ君は、スマホを見ながら真っすぐ廊下を歩いてくる。
私はもう、渡り廊下に入ってしまった。でも、まだ入ったばかりだから、顔を上げれば私が見えるだろう。
何となくだけど、ちょっと賭けてみたくなった。
彼と私はよく目が合う。もし彼が私を見つけてくれたら。
……見つけてくれたら、そう、今希望の大学に合格する。
そう、これはゲン担ぎだ。えっと、意味はなんだっけ。――えっと、ある物事に対して、以前に良い結果が出た行為を繰り返し行うことで、吉兆を願う、か。
ユウキ君と目が合うのは、いいこと。そう、いいことなんだ。
このまま、真っすぐ進もう。まだ、私に気付いていなかったし、私もちらっとしか見てないから、お互い見てないのも同然。これで気付けば本当に運命だ。いやいや、大学に合格する運命なんだ。
急いで渡り廊下を進んだ。この渡り廊下とちょうど90度、トモキ君と私は今ちょうど二等辺三角形。
二等辺三角形から直線になるイメージで歩いてたら、窓からきらっと鋭い光が差し込んできた。眩しくて、思わず窓の方を見たら、ユウキ君が向こうの廊下の窓越しに、手に何か光るモノを持ってこちらを見ていた。
やった、と思った。大学合格。
―――運命なんだ。
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