免許が必須となった社会

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     ランチタイムにおける田中さんとのやり取りから3週間後。  私は無事に、教習所の卒業試験を合格して……。  早速その翌日、一番近い免許センターへと向かっていた。  見上げれば、青く晴れ渡った空。朝から清々しい一日だった。  電車とバスを乗り継いで、降りたバス停の真ん前が免許センターだ。  清楚な白い塀に囲まれた敷地内に、横長の二階建てビルが二棟。左が赤色、右が青色の建物だった。  免許取得だけでなく、更新手続きもこの免許センターで行われているはずだが、どちらも同じ建物内で行われるらしい。「取得」と「更新」の違いではなく、免許の種類によって、会場となるビルが区別されているようだった。  というのも、女性は全て左側の建物へ、男性は右へ向かっているからだ。  この流れに従って行けば、行き先を間違えるはずもないだろう。  我が国の現行の法律では、両親の免許が揃っていない家庭で生まれた子供は、政府機関に取り上げられてしまう。生みの親たちに代わって、政府が責任をもって育てていく、という制度だ。  この制度が始まって以来、親による子殺しの事件が減ったり、少子化問題が改善されたりしたそうだが……。  いざ自分たちの子供が取り上げられるのを想像すれば、なんとも恐ろしい話! そんな事態を避けるためにも、私は絶対に今日、子育てに必須の免許を取得しなければならないのだ。  だから……。  私も人々の流れに乗り、左側の「母親免許」関連の建物でなく、右の青いビルに足を踏み入れて、「父親免許」受験受付へと向かうのだった。 (「免許が必須となった社会」完)    
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