ヤバイ目覚め

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二 遡ること一年前、朝礼の時だった。 社長が力を込めて語った。 「時代はDXです。これをやっていかないと時代に取り残されてしまいます。わが社もパソコンを活用し仕事を効率的に行って利益率を上げていこうじゃありませんか」 と訴えた。 いきなりどうしたの? 社員は唖然とする。 いままでどおりでやっていればいいじゃない! おっさん社員達にとってはデジタル化などどうでもよい。 会社でパソコンを新しくしてくれるわけではないし、タブレット端末をくれるわけでもない。 逆に誰が社長にそんなことを言わせてるんだ? 目立ちたがり屋の社員を思い浮かべながら社長の話を聞いているおっさん社員達。 四、五日すると誰が聞いてきたのか噂が広まった。 どうやら社長が東京に出張した折、大手メーカーのデジタル化に感化されたというのだ。 それは、現在順子の上司、阿部課長が絡んでいるということである。 当時メーカで業務効率化を担当していた阿部課長とデジタル技術の展示会で知り合い、デジタル化を勧められたようなのだ。 しかし、その後、そのメーカが経営不振に陥った。 そこでリストラされたのが、なんと阿部課長だ。 まさかが起きた。 阿部課長が社長を頼ってやってきたのだ。 半年前のことだ。 社長は、自分が朝礼の時「時代はDXだ」と社員に向かって言ったことだし…… 彼は前の会社でデジタル化を推進していた人物だし…… 大メーカ出身者なんだから大丈夫だろう…… そんな思いで採用を決めたのだった。 しかし、その後、阿部課長の悪いうわさが次から次へと流れてきた。 阿部課長はメーカにおいても強引でわがままで糸の切れたたこのように自由気ままに行動していたらしい。 何をするかわからない阿部課長にはメーカでも手を焼いていたようである。 いい噂は一つもなかった。 社内で広がる悪い噂が本人にも聞こえたのだろう。 入社したばかりの阿部課長は社長に認められようと必死で自分を売り込んだ。 「札幌の土木業界も変わらんとあきまへん。デジタル化して、業務を効率化して利益率を上げていきまひょ。そうせんと生き残れまへんでぇ」 強烈な関西弁で社長に売り込んだ。 人の良い社長はすっかり押されてしまった。 阿部課長にすべてを任せ社内のデジタル化に舵を切ったのだ。 彼が強引に始めたのが事務処理のデジタル化。 噂通り我が強く強引に話をすすめる阿部課長は、自分の能力を社長に自慢したい一心で行動した。 出勤簿のハンコをなくし、休暇処理をデジタル化し、現金支給だった出張旅費は銀行振り込みにし、親睦会費用やら課内のお茶代もぜんぶ銀行の自動引き落としとしたのである。 噂ではそのシステム構築に数百万もの資金を要したらしい。 すべて社員の意見を聞くことなくやってしまった。 いきなりデジタル化をしたところで、昭和の慣行が残るマネッジ商事の社員に通じるかわけがない。 変化を嫌う社員達は、余計なことをやりやがってと阿部課長を恨んだのであった。
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