側近ラッシュ視点

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側近ラッシュ視点

「ラメール。待って」 「もう帰るわ」 「一緒に帰ろう」 「ラッシュは婚約破棄すると知ってたわね?」  なんて答える?  落ち着け。ラッシュ。今が一番、大切なんだ。  幼い時から、ずっとラメールが好きだった。  だけどラメールは公爵家のお姫様。  僕は、その公爵家の臣下である男爵家の息子に過ぎない。  けど、ラメールが「カブトムシ」なんて嘲笑われるのは我慢ならない。  僕は、将来ラメールが苦労しないように、王子の側近になった。  王子はアホ。 「ラメールは恥ずかしい女だ」 「どうしてです?」 「ほら。女のくせに股をひらいて馬に乗ってる」 「海難事故で、遺族の元に馬を馳せているのですよ?」 「たかだか領民だろ」  またある時は。 「ラメールはあばずれだ」 「どうしてです?」 「ほら。女のくせに海賊と親しくしてる」 「あの海賊は、他の海賊から港の治安を守っています。いわば接待ですよ?」 「海賊ごときに尻尾を振って、浅ましい」  海賊のリオンと笑いあう姿を見ると、ちょっと仲が良すぎかなとは思う。  僕はラメールが好きだから。  けどリオンの父親こそが、過去の敗戦で公爵領を護った英雄。  王子の海賊のイメージはピーターパンのそれだった。  おだてに弱く責任感皆無の王子を、婚約破棄に導くのは簡単だった。  王子は、敗戦がどれだけ王国を疲弊させるかも知らないんだから。 「ラメールと結婚となれば殿下も働くことを強要されるのでは?」  見栄っ張りで、お人よしの王子に交易なんて無理だろうけど。 「見目麗しい王子の隣には、薔薇のような艶やかな女性が似合うのでは?」  世間知らずのアホじゃないと、お荷物王子を引き取らないだろうけど。 「一生共に過ごす女性の顔と身体が好みでなくて、後悔しませんか?」  僕はラメールがかわいくて愛しくてたまらないけど。 「よし。婚約解消しよう」 「殿下。後から覆されないように、証人を集めて、派手にやりましょう!」  そして。婚約破棄は成功した。 「僕は婚約破棄した方が、ラメールが幸せになると思ったんだ」 「あれだけ騒げば、私はもう傷物として普通の結婚はできないのよ?」  ああ。それを狙ったんだ。  僕とラメールでは釣り合わない。  申し訳ないけど、ラメールに落ちてもらうしかなかったんだ。 「僕がラメールを幸せにする。一生大切にする。愛してる」  僕はやっとプロポーズできた。  本当に、ずっと愛してたんだ! 「嫌よ。私がバカにされても助けない男なんて、願い下げだわ」  へ? へ―――――――――!? 「けど。けど、もうラメールは傷物なんだよ? 他にはいけない」 「リオンがいる。諦めてたけど、これでお父様も認めてくださるわ」 「海賊だぞ?」 「領土はなくても、王子よりよっぽど裕福で強いわ。それにね」 「ん?」 「私達、愛し合ってるの!」  陛下は謝罪として、リオンに伯爵位を与えた。  それがラメールの願いだったから。  財政難の王家にとっても、慰謝料より爵位の方が助かると。  公爵様は、ラメールが困らないように、小さな港を含む領地を与えた。  優秀な二人は、小さな港を交易港と栄えさせ、幸せに暮らしましたとさ。  って、オイ。  僕はどこで間違った?
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