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05話「スクリーンの中で、君は」
映画研究会の部室には、完成した映画を観るための小さなスクリーンが用意されていた。
部員たちは並べられた椅子に座り、期待の表情を浮かべている。
「さて、それじゃあ上映を始めます」
陽斗の声が響くと同時に、スクリーンに映画のタイトルが映し出された。翔は緊張した面持ちで画面を見つめる。
映画が進むにつれ、翔は思わず目を見開いた。そこに映っているのは、演じる自分――だけではなかった。陽斗が演出家として切り取った自分の姿は、どこか特別なものに見えた。
「これ……本当に俺?」
静かな声が漏れる。画面の中の翔は自然体で、どこか凛々しくさえ見える。台詞一つ一つが彼の心に響き、胸をじんわりと温めた。
映画が終わると、部室内に拍手が湧き起こった。部員たちが口々に感想を言い合う中、陽斗が翔の隣にやってきた。
「先輩、どうでした?」
「どうって……俺、あんな風に映ってたんだな」
「そうです。僕が見てた先輩をそのまま撮っただけですから」
陽斗のあっさりとした口調に、翔は少し戸惑いながらも頬を掻いた。
「……いや、長谷川くんの演出のおかげだよ。俺なんかじゃ、あそこまでできなかった」
「違います。先輩があれだけ魅力的だからです。僕はただ、それを映しただけです」
その言葉に、翔は胸が熱くなるのを感じた。
試写会が終わった後、陽斗に誘われて二人で屋上に向かった。夕焼けが空を赤く染め、柔らかな風が吹いている。
「今日は、本当にありがとう。俺なんかを信じてくれて」
「信じてましたよ、最初からずっと」
陽斗は手すりに寄りかかりながら答える。
翔はしばらく無言で夕焼けを見つめた後、陽斗に問いかけた。
「でも、何で俺なんだ? 今更だから白状するけど正直、最初は君の言ってることが全然わからなかった」
陽斗は少し驚いたように翔を見たが、すぐに口元を引き締めて真剣な表情になる。
「僕は、先輩がどんなに『普通』だって思ってても、特別だと思ってましたよ」
「……特別?」
「はい。一目あって、ずっと先輩の魅力を誰よりも見せたいって思ってました。それに――僕は先輩が好きなんです」
陽斗の告白に、翔は目を見開いた。
「え、俺を……?」
翔の反応に、陽斗は一瞬だけ視線を逸らしたが、すぐに真っ直ぐな目で彼を見つめた。
「俺なんかって言うのは、もうやめてください。僕には先輩が必要なんです」
陽斗の言葉に翔は答えを迷った。だが、その真剣な瞳の奥に自分を信じる気持ちを見つけ、胸がじんと熱くなる。
「……俺も。俺もたぶん、長谷川くんに引っ張られてたんだと思う。君がいなかったら何もできなかった、から……」
翔の言葉に、陽斗の目がわずかに潤む。二人は少し照れくさそうに笑い合った。
夕焼けが沈みかけた空の下、陽斗がふと口を開く。
「次の映画も、先輩が主役でいいですか?」
「えぇ……また? けど、まぁ、悪くないかも。あ、でも今回よりも魅力的に撮ってくれよ?」
「ふふっ、考えておきます」
二人は並んで歩き出す。映画制作を通じて得た特別な絆と、これから始まる新しい関係を胸に抱きながら。
――二人の未来は、スクリーンの中よりもっと輝いている。そんな予感を胸に。
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