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──人間の臭いがする。
親狼が脚を止めて鼻を高く上げた。少年もそれに気付いて辺りを注意深く見回す。少年は普通に暮らしている人間に比べ遥かに冴えた嗅覚を有している。
──まだそんなに近くじゃないな。でも奴ら、こんな時期に何しに来たんだ?
──わからん。だがどうせろくなことじゃないだろう。一応様子を見に行ってみよう。
一人と一頭は臭いのするほうへと気配を殺しながら近付いた。
辺りを窺うにはちょうどいい、小さな崖のように地面との段差がある場所まで来て、彼らは臭いの元を発見した。
二人組の男が毛皮を着込んで山の中を進んでいく。二人の肩にはそれぞれ銃身の長い銃が提げられていた。
──銃を持ってる。
少年の眼光が刃物のように鋭くなった。
──熊は今頃夢の中だし、兎か猪か……また山を騒がせに来たことは間違いないな。
親狼も低く唸る。群れの仲間が銃の餌食になったことも少なからずあるのだから、警戒するのも当然だった。
──どうする? オレ達の獲物に手を出されるのは気に食わない 追い払うとしても相手が二匹ならオレ達で何とかなるが。
──そうだな……ん……?
──どうした?
何かを確かめるように鼻をひくつかせる親狼に、少年も辺りを警戒しながら訊いた。
──……いや、何でもない。
親狼は珍しく歯切れ悪く答えてから、気を取り直すようにひとつ頭を振った。
──追い払いに行くぞ。
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