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冬の山は静かだった。
木々の大半は葉を落とし、針葉樹の葉の深緑も雪の白ばかりが目立つ景色に色を添えるには些か力不足のようだ。
生物達は冬眠するか、そうでないものは少ない餌を求めて彷徨い歩く。雪面は彼らの足跡で美しさを失っていた。
その山の奥、木々や植物と岩石が複雑に組み合わさってできた洞穴の中から、一頭の狼が姿を見せた。大きな体躯や太く逞しい四肢が風格を感じさせるこの狼は、かつては群れのボスとして君臨していた。
と、洞穴からもうひとつ影が現れた。
狼と比べるとあまりに身体が小さく手足も細いその影は、狼の後に付き従って歩くにはおよそ似付かわしくない姿だった。
身体の大きさ故ではない。それが二本の足を使って歩く、紛れもない人間だからである。
背丈は一メートルほどだろうか、まだ子どもに見える。頭全体をボサボサの髪の毛が覆っていた。色は珍しい黒と茶の斑。
この冬の雪山にあって、子どもは衣服を身に付けていなかった。そのため性別は男だとわかる。衣服の代わりに異常な量の、これもまた黒と茶の斑の体毛が、全身にびっしり生えている。
狼が少年を振り向いた。微かな動きと視線で意思を表す。
──行くぞ。
──うん。
少年も仕草で返事をすると、狼はそれを理解したように歩き出した。少年も後に続く。
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