飼い猫には鈴を

2/3
前へ
/3ページ
次へ
「ふーん」  自分から聞いてきた割には、興味のなさそうな返事だった。  恋顧が、ほっぺたをふくらませる。 「へっ! いいもーんだ、おまえが冷たくても、ねこちゃんたちがおれのこと、構ってくれるもんね。……どうしよっかな」  並んで見つめ合っている二匹のねこを、交互に見やる。 「一気に両手で撫でたら、めっちゃふわふわだろうなあ。これぞまさしく、両手に花だ」 「きっしょい発想やな」 「うるせぇ! 全世界のねこ好きに謝れ、バカ」  大声でツッコみ、ねこたちに手を伸ばす。  ねこの身体が、俊敏に動いた。 「あっ!」  手にできた引っかき傷を、反射的に押さえる。 「サバトラちゃんに引っかかれた……」 「アホ」  想思が、さっ、と歩み寄ってくる。  おびえたねこたちを刺激させないように足音を殺しながらも、素早い身のこなしだった。 「見してみ」 「うん……」  傷は浅いようやな、と、両手で恋顧の手を取り、観察する。 「不用意に近づかんとき。ケガするで」 「でも、かわいかったから」 「かわいいからといって、軽率な行動すんな。アホ。考えて行動しろ。見ろ、あん顔」  サバトラの方を指す。 「なに、俺のスケに手ェ出しとんじゃワレ! いてまうぞ! ってツラや。いっちょまえに。逆鱗に触れたんよ」 「おまえら、カップルだったのかあ」 「え、今更?」  想思が唇をへの字にする。 「にぶいなあ、お前」 「あのっ、すみません」  ねこの前でしゃがみ込んでいた二人に、後ろから声がかかった。 「あっ、ハイ」  恋顧が、とっさに振り返る。  背のやや低い、長い黒髪の女のひとが、恋顧を上目遣いで見つめていた。 「あ、やっぱりネロだ。こんなとこいたの、ネーちゃん」 「語弊があるネーミングやな」 「黙ってろ」  恋顧がささやいてくる想思を一喝して黙らせ、 「そっ、そちらのねこちゃんだったんですね! すみません、勝手にさわらせてもらってて」 と、両手をオーバーな動きで合わせた。  女のひとは、わたわたとして手を、顔のわきで振る。  頰を押さえて、つづけた。 「いや、えとっ、……いえいえ、こちらこそ、ケガさせちゃったみたいで。ほんとうに、すみません」  合わせたまま微動だにしていなかった恋顧の手を、そっと握る。 「うぇっ!?」  恋顧が、目に見えてわかるくらいにのぼせあがった。 「あの、もしよければ、おわびに今度、ご飯でも……」 「ええっ? えっと」  勢いに流されかけた彼の肩に、手が置かれる。  想思が、無表情で言った。 「さ、買い出し行こか。いっかい家、戻るよ」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加