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何か自分の中で引っかかりを感じながらも、キラ君の着替えを取りに行った。
ベッドルームのクローゼットを開ければ、ノートパソコンとデスクトップがしまわれている。小さな段ボールには、SE関係の本が何冊か積まれていた。
SEを辞めてまで営業に来た意味。もし自分が理由なのだとしたら、私が七三倉晩の人生をめちゃくちゃにしてしまっているということになってしまうのだろうか?
(ㅎ.ㅎ).。oஇ
「キラ君、起き上がれる?」
「ヴァン君って呼んで。」
「ほらヴァン!ちゃっちゃと起きて着替えよ?」
「すんごいネタみたいに呼ぶじゃん。」
のそりと、幽体離脱のタイミングで上半身を起こしたキラ君。汗はかいていないのに身体はやっぱり熱くて、でも本人は「さむい」とつぶやいている。
黒いシャツのボタンに手をかける。人の服を脱がせた経験はないので、少しだけ指先が震えた。
でもこの黒光りするシャツがあまりにもセンス悪すぎで、いい具合に緊張を緩和させてくれた。
キラ君の胸板が表れて、甘党の癖にほどよい筋肉が浮かび上がる。私は目を泳がせながらも、ただ無心で身体を拭いた。
「……あの……ほら、Tシャツ持ってきたから。頭からかぶって。」
「は…?俺の身体にいかがわしいことしないの?」
軽くタオルで頭を叩いてやる。
「パンツとズボンはここ置いとくから。ちゃんと自分で着替えなよ?」
「着替えられないよアッキーナ。」
「そんなバカな。」
「俺、こんなバカだもん。」
こんなバカだとしても、軽口叩けるくらいには元気そうだ。
上半身を拭いて、パンツを持ってきてやっただけでも20万円分は働いたというのに。
なかなか着替えようとしないキラ君を甘やかしてはやらない。少しは動く気になるかもしれないと、私はテーブルにさっき浴槽で拾ったスマホを置いた。
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