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子供が二人、神社の境内で段ボールをこっそり隠しているのを私は見ていた。いつも、本当はここに仕事をさぼりに来ている。もとい、出勤したふりをしに来ている。その日もまた、ただぼんやりベンチに腰かけていた。夏は過ぎて、涼しい季節がやってきた頃だった。
「かずくん、そっちは人に見つかっちゃうよ」
そんな可愛らしい声が聞こえて、私は声のした方をこっそりのぞき込んでみた。裏から上がれる階段があるのは知っていたが、そちらを通る人はあまりいなかった。小さな鳥居が建てつけられたその入り口を通って、そのまま本殿の後ろ側に位置するところに、その二人はいたのだった。
「言われなくても分かってるよ」
生意気そうにむすっとした男の子は、その腕になにかを抱いていた。すぐに背中を向けたのでなにかは分からなかったが、物語でよくある定番と言えばそれは子猫か子犬だろうと私は踏んでいた。きっと家に連れ帰ることもできずに、ここで秘かに育てようということに違いないと思ったのだ。
私は彼らをじっと見つめていた。それはにわかには信じ難いほどの興味をそそられていたのだ。彼らは一体、これからどうしていくのだろう。そんな興味がふと湧いてしまったのだった。
それからの私は、その段ボールのところに彼らがいないときに通うのが日常になっていた。そこにいたのは、目ヤニで汚れてはいたがくりくりした目の子猫だった。逃げ出さないようにと段ボールに入れられたこの子が、何ヶ月で成猫になるのか、きっと彼らは知らないだろう。半年もしないうちに、見事に猫の身体は大人になるのに。どれだけの期間、ここで飼えると思っているのだろうか。そんな思いを抱きながら、私は見守ることにした。本当は連れ帰ることもできたのだ。私の住む賃貸マンションは、ペット可。それでも、ギリギリまで彼らを見守りたかったし、私も生半可な気持ちで生き物は飼えないと思っていた。もっとも、夫に許可が必要なのは間違いないが。
私にも、昔は飼っていた猫がいた。知人のところで生まれたというその子猫を、生後一ヶ月もしないうちにもらえることになったのだった。それが、五年近く前になる。そして、私は今、仕事に行けないほどに体を壊すことになった。この事件を私は一生忘れることはないだろう。彼らをぎりぎりまで見守ることが、私の唯一の生き甲斐になりつつあった。
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