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二人は、子猫のことを両親に本当に話せていないのだと話した。こっそり家から牛乳を持ち出し、学校では毎日自分の牛乳を少し残しては持って帰ってきているのだという。毎日一本ずつなくなる牛乳瓶は、学校にはバレないのだろうか。私はそんなことを思っていた。
「それなら、子猫用のミルクがお店で売ってるから、お姉さんが持ってくるわ。そしたら、こそこそしなくていいでしょう。会いたいから会いに来る、それでよくなるわ」
「いいの?」
沙織ちゃんはもう普通に私と話してくれるようになっていた。一度会ったら友達で、毎日会ったら兄弟さ――そんな子供番組の曲があったのを思い出していた。こういうと、分かる人には年齢が分かってしまうかもしれないけれど。
「大人には頼れるときに頼ればいいのよ」
私はそう言った。頼れるときに頼り方を覚えないと、いつしか、頼り方を人は忘れてしまうものなのだ。私が、夫に頼り切れていないように。それでも、と私は思った。本当に夫に話してみなければならない。この子がここに入っていられるような期間はもう残りわずかだ。二人は私の提案を納得してくれたようだった。
「ありがとう」
そう言ったのは沙織ちゃんで、和生くんは頭をぺこりと下げただけだった。人見知りの天邪鬼、それが和生くんの印象だった。それでも、沙織ちゃんには不器用な優しさを見せるのかもしれないなと勝手に想像して、また微笑ましい気持ちになった。
数日後、私は家に帰るといつも通り部屋に籠った。夕飯は作り置きのおかずが冷蔵庫に置いてある。私がめんどくさがりなので、一気に作ってすこしずつ出すことにしている副菜で冷蔵庫はよくいっぱいになる。主菜だけは夫が帰ってきてお風呂に入っている時間に作ることにしている。夫は残業も多い。帰りの時間は毎日ばらばらだった。それでも、なるべく早く帰ってこようとしてくれていることは分かっていた。私は夫に心配を掛けっぱなしになっている。それを、どこかで本当に吹っ切らなければならないと思っていた。私が本当の意味で元気にならないと、夫はずっと安心できないだろう。その第一歩が、きっとあの子猫に違いない、そんな気がしていた。
「ねぇ」
私は、その言葉をどう口にしたらいいものかをずっと考えていた。これはタブーになっているワードと言っても過言ではないのだから。
ん?そう言って振り返る夫が心配顔をあえて隠して私と過ごしてくれていることも分かっていた。
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