やすらぐ

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「本当に会いたいならね。飽きるなら、来なくても大丈夫」  私は突き放すでもなくそう言った。本当にどちらでも良かった。私が責任を持って育てるから、あなたたちは好きにして大丈夫、そう思ったのだった。私は、一度仕事を辞めよう、とそこで決めたのだった。  リリアが亡くなったのは事故だった。私がたまたまベランダの扉を開けっぱなしにしてしまっていて、そこにカラスが飛んできたのだった。初めての外敵との触れ合いに夢中になったリリアは、カラスに飛び掛かってベランダから落ちてしまったのだった。その瞬間を、私は本当に偶然目撃してしまった。私たちの住む部屋は、八階だった。リリアは即死だった。  そんなことあるわけないだろう――最初そう夫に言われたけれど、私の落ち込みようは尋常ではなく、私が捨てたわけではないことは明らかだった。生き物を飼うということは、その責任をちゃんと果たさなければいけないということなのだ。私のうっかりが、リリアを死に追いやったのだった。もう、そんなことがないように、私はつきっきりで面倒を見ようと思った。なによりも、中途半端に精神疾患ということで溜め込んでいた有休を消化していたのだが、それももう限界は近づいていたのだった。  職場への辞職の旨を伝えてからの私の行動は早かった。一ヶ月前には職場に告知をしなければいけないという義務に従い職場復帰をするつもりだった。残った仕事もあるだろうと思っていたのだが、一ヶ月近く休んでいた人間が一ヶ月だけ働いて辞めるというのも、と上司から言われたので、辞表を出したその日付で職場を辞めることとなったのだった。どうして人が亡くなったと言えば心配慮してもらえるのに、ペットが亡くなったからと言っても配慮してもらえない風潮なのだろうと私は心底思っていた。ペットは立派な家族だ。  夫にはすぐに話したが、元々働きたかったら働けばいいというスタンスだったからか、仕事を辞めることに反対の声は一つも出なかった。私がなにかをしたい、と真剣に話したことの方がよっぽど大事(おおごと)だったようで、どこか嬉しそうな表情になったのを私は見逃さなかった。夫のことなら分かるのだ。子供たちのことは分からなくとも、夫のことはちゃんと分かる。それが夫婦というものだろうと私は信じていた。
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