わざわざ、遠くから来たのに

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わざわざ、遠くから来たのに

 荘厳な両開きの扉を開き、バージンロードに足を踏み入れた。  前を見ると、すでにウエディングドレスの女性がいる―――。 「ソレイユ王女とは結婚しない! この白く美しい伯爵令嬢と結婚する!」  結婚相手であるはずの王子は宣言した。  ソレイユ王女は私。  私は隣国リビエラの王女。  結婚するために、わざわざやってきたのに。   「出ていきなさい。浮気女が!!」  最前列に列席していた妃殿下が立ち上がり、浮気令嬢をひっぱたく!  驚くほど俊敏な動き。  でもまぁ、動揺するのも無理ない。  王室の結婚式には世界中から貴賓が集まるから。 「母上、私は彼女を愛してるのです。他の女なんか嫌なのです」  王子は妃殿下に言ったつもりかもしれないが、一番遠い私まで聞こえた。  嫌なのですって……。  なんて甘ったれ。これでも一国の王子!? 「白いドレスでさえ、花嫁を祝う気のない恥知らずな行為だと疎ましかったけど。まさかここまで愚かだとは……」 「母上、どうかお怒りは私に」 「……ああ。そうね。育て方を間違えたのは、私ね」  妃殿下は王子を叱るどころか、その場で崩れ落ちてしまう。 「リビエラ国に婚姻同盟を依頼したのは、私だぞ?」  同じく最前列に列席していたモンタナ国王陛下も立ち上がる。  今度こそ、王子を叱るのかしら? 「陛下。モンタナ国の武器は性能がいい。だがリビエラ国の魚なんて、どこからでも買える。同盟などなくとも問題ありません」  王子は浮気を肯定するかのように語る。  罪悪感は微塵もうかがえない。  モンタナ国は山の国、鉱山と鉄器製造で有名。  リビエラ国は海の国、港と魚介類で有名。  だとしても無礼が過ぎる。  絶対に許してはいけない。  王子がバカにしたのは私じゃない。  私の国だ! 「では結婚は、なかったことにしましょう。ドレスもご覧ください。浮気令嬢と王子殿下は、お揃いであつらえたのでしょう? とてもお似合いですわ」 「しかし、ソレイユ王女殿下――」  慌てるのはモンタナ国王陛下。そして列席するモンタナ臣下。  もう遅いわよ。 「陛下。ソレイユ王女も気にしてないし、婚姻同盟は要りません。なんと言っても、モンタナ国の武器は最強なんですから」 「気にしてないわけないだろ? 早く謝れ。バカ息子!」 「……申し訳ありません」  陛下に促されて、王子は渋々謝罪した。  もう許さないけど? 「よいのです。私はモンタナ温泉に入ってみたかっただけですから。浮気令嬢をお幸せにすると、誓ってくださる?」 「ああ。もちろんだ」 「では、みなさん温泉に寄ってから帰国しましょう! お詫びのおもてなしは、リビエラ国でゆっくりと致しますので」
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