一年後(甘ったれ王子視点)

1/1
前へ
/3ページ
次へ

一年後(甘ったれ王子視点)

「王子殿下。お世継ぎがお生まれに……」  やった! 最近辛いことばっかりだったから凄く嬉しい!  なのに侍女がとても暗い。  見に行くと、部屋には仁王立ちの両親。 「見てごらんなさい。バカ息子。浮気女は黒髪を産んだわよ!」 「まさか」  かなり薄いものの、赤ん坊の髪は黒い。 「まったく。お気に入りの騎士三人のどれかでしょ」 「だって! 結婚式から私は、国中から『浮気令嬢』と呼ばれるんですよ! 妃殿下だって私を汚れ物のように見下して!」 「略奪して嫁いだ嫁なんか可愛がるわけないでしょう? だから浮気を繰り返す? なんて貞操観念のない」 「私を嫌う人ばかりの城で、優しくしてくれたのは三騎士だけですから!」 「自分のせいで、国中から疎まれてご実家は滅びたのよ? いまだに自分が被害者だと思うの?」 「ぐぬっ……」  浮気妻は恨めし気に私を睨む。叱ったのは母上なのに。  結婚前は宝物だった。  結婚後は愚痴ばかり。  うんざりなのに、結婚式の誓いのせいで別れられない。 「王家に嫁いで浮気するか? しかも三人て……」 「浮気する女と知って愛したくせに、何言ってるの? この先、浮気女が金髪の子を産んでも、王家の血と信じられなくて、だれも世継ぎと認めないわよ……」  私がぼやくと、母上は呆れ果てる。  ドサッ。  世継ぎを残すことこそ王室に嫁いだ女の使命と考える、古臭い母上は崩れ落ちた。 「だって、殿下は城にいないでしょ!!」 「交易で各国を回る必要があるんだ。何度も説明したろ?」  浮気妻はいちいち叫ぶ。うるさいったらない。 「自分のせいだろうが! リビエラ国を敵にまわせば、同盟国だって協力するに決まってるだろ」  目がうつろだった父上が、堰を切ったように怒鳴った。 「塩も売ってくれない。港も使わせてくれないなんて思わなかったんだ」 「同盟を何だと思ってるんだ? 一国の王女にして許されん仕打ちだと、どこの王だって思うよ。ワシだって娘が同じ真似されたら一生許さん」 「……悪かったよ」 「今さら反省しても。塩を失い去った民も兵も、次期王のそなたに呆れて去った臣下も、もう戻ってこんよ」 「……」 「どうして、浮気女じゃなきゃダメだったんだ? 国を背負う王子なんだぞ?」 「……」 「残った臣下は、王位継承者を従弟にしろと。ワシもそうすべきだと……ウッ!」  父上が頭を抱えしゃがみ込んだ。  そして、そのまま白目をむいて死んでしまった。 「そなたのせいよ!謝罪して回ってお疲れなのに。また頭に血を上らせるから!」 「母上。お黙り下さい。私が王です」  起死回生のチャンスだ!  このままいけば、最悪廃嫡。  王位を継げないことは、確実だった。  ふぅ。死んでくれて助かった────。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加