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一年後(甘ったれ王子視点)
「王子殿下。お世継ぎがお生まれに……」
やった! 最近辛いことばっかりだったから凄く嬉しい!
なのに侍女がとても暗い。
見に行くと、部屋には仁王立ちの両親。
「見てごらんなさい。バカ息子。浮気女は黒髪を産んだわよ!」
「まさか」
かなり薄いものの、赤ん坊の髪は黒い。
「まったく。お気に入りの騎士三人のどれかでしょ」
「だって! 結婚式から私は、国中から『浮気令嬢』と呼ばれるんですよ! 妃殿下だって私を汚れ物のように見下して!」
「略奪して嫁いだ嫁なんか可愛がるわけないでしょう? だから浮気を繰り返す? なんて貞操観念のない」
「私を嫌う人ばかりの城で、優しくしてくれたのは三騎士だけですから!」
「自分のせいで、国中から疎まれてご実家は滅びたのよ? いまだに自分が被害者だと思うの?」
「ぐぬっ……」
浮気妻は恨めし気に私を睨む。叱ったのは母上なのに。
結婚前は宝物だった。
結婚後は愚痴ばかり。
うんざりなのに、結婚式の誓いのせいで別れられない。
「王家に嫁いで浮気するか? しかも三人て……」
「浮気する女と知って愛したくせに、何言ってるの? この先、浮気女が金髪の子を産んでも、王家の血と信じられなくて、だれも世継ぎと認めないわよ……」
私がぼやくと、母上は呆れ果てる。
ドサッ。
世継ぎを残すことこそ王室に嫁いだ女の使命と考える、古臭い母上は崩れ落ちた。
「だって、殿下は城にいないでしょ!!」
「交易で各国を回る必要があるんだ。何度も説明したろ?」
浮気妻はいちいち叫ぶ。うるさいったらない。
「自分のせいだろうが! リビエラ国を敵にまわせば、同盟国だって協力するに決まってるだろ」
目がうつろだった父上が、堰を切ったように怒鳴った。
「塩も売ってくれない。港も使わせてくれないなんて思わなかったんだ」
「同盟を何だと思ってるんだ? 一国の王女にして許されん仕打ちだと、どこの王だって思うよ。ワシだって娘が同じ真似されたら一生許さん」
「……悪かったよ」
「今さら反省しても。塩を失い去った民も兵も、次期王のそなたに呆れて去った臣下も、もう戻ってこんよ」
「……」
「どうして、浮気女じゃなきゃダメだったんだ? 国を背負う王子なんだぞ?」
「……」
「残った臣下は、王位継承者を従弟にしろと。ワシもそうすべきだと……ウッ!」
父上が頭を抱えしゃがみ込んだ。
そして、そのまま白目をむいて死んでしまった。
「そなたのせいよ!謝罪して回ってお疲れなのに。また頭に血を上らせるから!」
「母上。お黙り下さい。私が王です」
起死回生のチャンスだ!
このままいけば、最悪廃嫡。
王位を継げないことは、確実だった。
ふぅ。死んでくれて助かった────。
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