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即位式(甘ったれ王子視点)
「リビエラ国が攻めてきました──────ッ!!」
「今? これから即位式なのに?」
「やっぱり甘ったれのままなんですね! 戦争で敵の都合なんて考えてくれませんよ。むしろ敵が戦闘態勢を取れない時を狙うでしょう?」
「と、とにかく防衛準備を!」
「武力のある将軍はみな、一年前に寝返ってますよ」
「じゃあ、だれが軍を指揮するんだ!?」
「ご自分でしょうが。私ももうモンタナ国は見捨てます。さようなら───」
「待て! 逃げるなッ!!」
伝令が去ると、即位式の列席者も、次々席を立つ。
呼び止めようとした。
だけど臣下の名がわからない。
もう大物はいないから仕方ない。でも、今は小物だって必要。
「待て。待つんだ。今こそ一丸となりモンタナ国を護るんだ! モンタナの武器は最強だ!」
「だれに言ってるんです?」
「全員だ。いや、そなただ!」
「私を御存じで?」
「いや、知らない」
小物だから。
「相変わらずの甘ったれで。私は元モンタナ陸軍大将ですよ」
「へ。城で見たことないが?」
「そりゃ国境の軍部にいましたから。そして今はリビエラ陸軍中将です」
「こンのォ! 裏切り者め──────ッ! よくも堂々とッ!!」
「だって交易の盛んなリビエラ国とのドレスの差を見ました? ソレイユ王女殿下のドレスは滑らかな絹が輝いてたじゃないですか」
「だからなんだ」
「臣下の装いも差が明らか。家族や部下を豊かな国に連れて行きたいですよ」
「そんな理由で裏切るのか!?」
「世界中から集まった貴賓は、冷静で凛としたソレイユ王女殿下に同情し、甘ったれ王子に呆れていました。モンタナ国に未来がないと、だれだって思うでしょう?」
「ぐぬっ……」
「では拘束しますね」
そして荘厳な両開きの扉を開き、入ってきたのはソレイユ王女。
「やっぱり温泉に好きなだけ入りたくて、国ごともらうことにしたわ」
「処刑する気か?」
「しない。モンタナ国は滅亡だけど。赤ちゃんはうちの騎士の子だし。あら? まだ気づいてなかったの?」
「うちの?」
「人不足になったモンタナ国にスパイを入れるのは簡単だったわ。まだ残ってるのは、ほとんどリビエラ国の人間よ」
だから臣下も侍女も、知らない人間ばっかりだったのか!
「なんて卑怯なッ!!」
「卑怯かしら。本気で結婚式後に、お詫びのおもてなしをするとでも思った?」
「へ?」
「作戦会議に決まってるでしょ? 列席者にはリビエラ国臣下が百人いたのよ? みんな怒ってるもん。モンタナ国崩壊に向けて何でもするわよ」
なんて狡猾な女なんだ──────。
「愛を貫くのがそんなにいけないことか?」
「お好きなだけどうぞ。幸せになって欲しいから。浮気令嬢と二人で働ける塩田を紹介するわ。塩がないと人は生きられないのよ。頑張ってね」
「そんな疲れること、できるわけないじゃないかぁ───!!」
「できるできないじゃない。するのよ」
「ぐぬぬっ」
ソレイユ王女がのんびり温泉に浸かる間、汗水たらして二人で肉体労働。
立派だと思うだろ?
違うんだ。
逃げると暴徒に襲われるんだ。
国中から憎まれててさ。
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