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一度吐き出されている粘着質な液が鼓膜にこびりつくような音を立て、中で泡立っているのがわかるほどに、ぐちゅぐちゅと音を立てている。
さしずめ泡立て器に掻き回されるホットケーキミックスのように甘く融けた俺の身体は、男の灼熱に焼かれ美味しく召し上がられているんだろうか。
(なんかそれ、笑える)
荒い吐息の中、ククッと喉奥で笑ったら、余裕な態度が面白くなかったんだろうか――男は俺が手慰んでいた情欲を背後から握りこんで来て「余裕だな、犬」と笑った。
「さっきから犬、犬、うっせぇんだよ」
「発情した犬だろうが。首輪も付けてやろうか?」
言って、男は背後から首を絞めてくるからケホッと咽せたら、突き入れる腰までも行き止まりを過ぎるほど抉ってくるから、快楽は脳髄を犯し、目の前に火花が散って俺は自身の喉元に白濁を飛ばした。
上半身を支えていた二の腕からは力が抜け、ベッドに突っ伏すけれど、男の動きは止まらず、腰を持ち上げられて脱力した身体を揺すぶられ続ける。
極めた身体を揺すぶられ続ければ、乾いた絶頂が何度も訪れ、まさに犬そのものだろう――口からはだらしなく涎が垂れ続け、はっはっと荒い呼吸を繰返す。
「節操のない犬だな。いま美味いミルク飲ませてやる」
言葉と共に、臍の奥にもったりとした(こいつ曰くミルク)を注ぎ込まれ、腹が温まる感覚に、それでもなんだか幸福感を覚える俺は本当に犬かもしれねぇ。
セックスをした後、相手が愛おしくてたまらなくなるタイプと、相手がどうでもよくなるタイプに別れるらしいが、コイツは後者だ。
またすぐに全身ベトベトの俺を放置して、煙草に火を点けた。
だけど――。
「なぁ、お前」
「あ?」
「もし次があんなら犬じゃなくて可愛い猫になれよ」
いや、これってもうネコってやつなんじゃねぇの?
だが、男は男を相手にしたのは初めてらしく〝ネコ〟という単語の意味を理解していないらしい。
むしろ、こっから主導権握れんの俺じゃね?
煙草を奪い取って、先程噛んで出血した唇を猫のような仕草でぺろりと舐めてやれば、男は驚いたように目を見開くから。
「アンタ、可愛いとこあんな」
ククッと笑って言ってやったのは、三度目のおかわりだったりしたのだが、案外チョロい俺の飼い主様はすぐに煙草を灰皿に揉み消した。
どうやら俺はこの飼い主様を気に入ってしまったようなので、可愛い猫にはなれねぇが、躾のなってない飼い犬にならなってやってもいいかな、などと思いつつ、もう一度唇を合わせた。
END
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