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 そんなある日、蒼と口論になってしまった。   寝る前に、ただ、声が聞きたかっただけ。  "今日も頑張ったね。オヤスミ"と、言い合いたかっただけだった。  職場での飲み会、その場に若い女性の同僚がいるのは仕方ない。  蒼が浮気なんてするはずないと信じてるのに、会えない時間が私を不安にさせた。  それに加えて患者さんからの理不尽なクレーム、疲れた体。  私の情緒は不安定だった。  繋がった電話の向こうは賑やかで、私の眠気はどこかへ飛んで行ってしまった。   『ゴメン、今、飲み会で……後でかけ直す』 「もう寝るし。いいよ、かけ直さなくても」 『どうした? 何かあった?』 「いいって、飲み会もどりなよ」    私の素直な心も、眠気同様にどこかへ飛んで行ってしまったようだ。  モヤモヤした気持ちで「じゃあね」と通話を切ろうとした時、電話口の奥から『蒼く~ん?』という若い女性の声が聞こえてきた。   「早くもどれば?」  私の不機嫌な声色に、蒼が『ちょ、(けい)? どうしたんだよ?』と慌てる。   「こんな……寂しがりの面倒な私となんて別れて、新しい彼女でもつくれば? そっちにいるほうが楽しそうじゃん? ほら、蒼く~んって、呼ばれてるよ?」  自分でも吐き気がするほどに、嫌味ったらしい意地悪な言い方になった。  本当はそんなこと1ミリたりとも思っていないのに。  いつもはこんなこと絶対に言わないのに……。 「あ」     今更、取り戻すことは出来ない。 『は? 何それ。俺のことなんだと思ってんの?』  くぐもった低い声。  蒼の怒りをはらんだ声色に、全身から血の気が引いた。   
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