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 「ちょっと、今日の207号室の担当って誰?」    一通り午前の部屋回りを終えて、部屋持ち看護師たちが詰所に戻ってきたタイミングで病棟師長の怒号が詰所内に響いた。  スタッフは皆「やれやれ、また始まった」と言わんばかりに、互いに目配せをして身を縮めた。  「わ、私です」  看護師長の怒号に圧倒されながらも、207号室の受け持ちだと、名乗りをあげたのは新人看護師の根岸(ねぎし)さんだった。  瞳にうっすらと涙を浮かべ、どら猫に追い詰められた鼠のように怯えている。 「根岸さん! 今、207号室に行ってきたのよね? あの部屋に入った時、あなたは何も感じなかった?」  高圧的な師長の問いかけに、「えっと……」と、根岸さんは、師長が何のことを言っているのかわからないといった様子で、視線を泳がせた。  沈黙すること5秒。 「早く何か言え~」と、周囲にいる同僚たちの想いは皆同じだろう。各々に業務をこなしているが、きっと全神経が師長の方へ向いているに違いない。  師長は「もう一度、207号室見てきて?」と、口角をくいっとあげた。  根岸さんは「はいっ」と短く返事をして、慌てて詰所を出て行った。  残されたスタッフは誰一人、師長と視線を合わせようとする者はなく、皆、忙しそうに何か作業をする。  ピンと張りつめられた重苦しい空気が詰所内を覆った。    
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