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 師長席の隣にある点滴台で点滴の準備をしていると、207号室から戻った根岸さんがおずおずとやってきた。 「師長……」  パソコン仕事をしていた師長は手を止めた。そして座ったままの状態で椅子を回転させて、根岸さんの方へ体を向ける。  点滴の準備は終わったのに、根岸さんが気がかりでその場を動けなくなった。   「何か気づいた?」    根岸さんは唾を飲み込んでから「はい」と口を開いた。 「窓側の3ベッドの阿久(あく)さん、ベッド周りに私物が……」  根岸さんがそこまで言うと、師長は「そう!」と椅子から立ち上がった。  突然の大きな声に、根岸さんも私も、びくんと体が弾んだ   「私物はベッド下の引き出しか、床頭台の中って決まっているでしょ? あんなに重たい漫画の本の紙袋をいくつもベッドの周りに置いたら……」  師長は早口でそこまで言うと、ひとつ大きく息を吐いた。 「何が問題かわかる?」 「か、介助がしにくいです。車いすに移動するときとか、いちいち除けないといけないし……」  自信が無いのか、語尾が小さくなる。 「そうね。でもそれはこちらの都合。患者主体で考えてみて?」 「えっと」  根岸さんが答えを考えている間、師長と目が合ってしまった。  私は咄嗟にへらへらっと笑う。  すると師長も笑い返して「先輩が助けてくれるって! ねぇ、森本(もりもと)さん」と言った。  俯いていた根岸さんが眉をハの字にして「あぁ、助けて」と、私に懇願する視線を送ってきた。  
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