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「急変などの緊急時に、迅速に対応できないからです」
師長は満足気に手を叩いた。
「そう! 整形では滅多に起こらないけれど、万が一の時にストレッチャーとか救急カートが入らないよね? 患者さんにも納得のいくように説明して、環境整備していかないと……」
そう言うが、207号室の阿久さんには私も、先輩方も、何度も注意をしている。だが、全く聞き入れてもらえないのだ。
「実は……」と、私はそのことを師長に伝えた。
「そうなの? どうしてもっと早くに報告しなかったの。わかった、行ってくる」
師長は鼻息を荒くして、詰所を後にした。
その後、阿久さんの私物は、紙袋1つだけを残して家族の方が持ち帰ってくれたようだった。
交渉の末の、妥協点らしい。
師長は、部下にばかり厳しいことを言うわけではなく、自らも行動する。
「201号室の谷さん、目やについてたわよ。それに爪も伸びてきてる」
「あなたたち、自分の家族だと思って患者さんのケアにあたってるの?」
「看護計画、実行しないと計画の意味ないわよ」
言っていることは正論だ。だが、それぞれ患者のために優先事項を考えてケアを行っていても、理解してもらえないこと、私たちの手の届かないところはある。
ナースコールや記録に追われて、日常生活のケアも優先事項の低いものは後回しになってしまうこともある。
どうしたら理解が得られる? どうしたら効率よくケアができる?
毎日、頭と体をフル回転させて働いているが、なかなか理想通りにはいかない。
それなのに、師長は厳しいことばかり。患者のことを第一に考えて言っているということは理解できるが、スタッフたちは皆、「精一杯やってるんだよ!」 と、反抗期のJKみたいな気持ちになってしまう。
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