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「うふ、うふふふ、うふふふふっ!」
魔女は、傍から見れば超・気持ち悪い笑みを浮かべて、大きな卵を撫でていた。
「これで、私は世界を支配する魔王になれるのよ!」
その言葉に反応するように、卵がカタリと揺れる。
「魔王になるには、強大な魔力の泉源が必要! このドラゴンを使い魔として従えれば! 私の! 魔力は! 何十倍! 何百倍! 何千倍にも! 膨れ上がるっ!!」
そう言って、魔女は拳を高々と突き上げた。卵がカタリと揺れる。
「さーて。アルゲントゥム・ウィーウムちゃん。これからママがしっかり育ててあげるからね〜」
魔女はいそいそと、柔らかなクッションの敷かれたカゴの中に卵を置いた。
「まずは、オリハルコンとミスリルのかけらに、薔薇の香水。エリクサーの実……」
魔女は魔力のこもったアイテムをゆりかごに置いていく。それらは、一瞬光ったと思ったら、ゆっくりと卵に吸い込まれて行った。
「今日のご飯だよ〜。今日はねー。ダイヤモンドにクオーツ。朝露に溶かした碧玉と……」
それから毎日毎日、寝る間を惜しんで魔女は卵に蒐集品のマジックアイテムを与え続けた。
「今日は、賢者の石!」
そして……。
「モヨーヌコリャマヒジネ♫ ガヌートウーオジタロス♫ ……♪ ……♬」
途切れることなく、魔力の籠った呪文を子守唄がわりに聞かせる。
魔女の与えるマジックアイテムと呪文の子守唄。それらを吸い取って、卵はどんどん成長していく。コトコトと動くだけではなく、はっきりとした鼓動が聞こえるようになった。
拍動は日に日に強くなり。とうとうある日! 銀に光る漆黒のドラゴンの幼体が誕生した!
「ピイィ!」
「アルゲントゥム・ウィーウムちゃん! ようこそママのところへ!!」
「ピィ!」
ドラゴンは最初に目にした魔力を持ち動くものを親と認識する。魔女は思惑通りドラゴンの母となった。
「じゃあ、アルちゃん。箒でお散歩にいきましょね〜」
「今日のご飯はマジックスライムよ〜」
「ほら、これ新しい玩具。噛むと甘い呪文のかかったボール!」
魔女は自分にできる最高の環境と『愛情』をドラゴンの幼体に与えた。
「ピイ ピピイ!!」
ドラゴンは魔女の『愛情』を受けてドラゴンは日に日に大きくなる。瞳は魔力に輝き、まるまると太っていった。そして、ドラゴンの幼体は完全体になるために、繭を作った。
「とうとうね! とうとう私の完全なドラゴンが誕生するのよ!」
魔女はドラゴンの繭の隣で、三ヶ月間寝ずの番をしていた。ドラゴンの成熟する三ヶ月が過ぎ、宝石の結晶のような繭が割れていく。
「やっと。やっと苦労が実るのね! これで、これで! 私は魔王になれるのよー!!」
魔女が叫ぶと同時に、白い翼が広がった。……白い翼と金色の鱗のドラゴンが誕生する。そのドラゴンの声は世界中に響いた。そう、彼が支配することになる世界中に。
「お母さん、ありがとう。貴女の注いだ魔力と愛情で、私は世界に君臨する神となった!」
<完>
……色々野望とか理想を持って育てても、子供は親の思い通りにはなりません! って話デス。
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