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「せんちぇえ、なに みてるの?」 「葉の裏だよ」 「うら?」  まだ三つにならないこの子は、ぺたりとしゃがみ込むと、一緒に葉の裏をのぞき込んでいる。畑の柵の外に、へその緒がついたまま捨てられていたときは、果たしていつまで生きられるだろうか、と思ったものだが。 「せんが いっぱい」 「そうだね。ここを水が通っていくんだよ」  へぇ、と目を丸くして声を上げる。頭をなでてやると、桶から水をすくい、豆に与える。今年はいい実をつけてくれるだろう。  立ち上がり辺りを見渡す。農園は昔より広く、大きくなった。だが、あちらこちらで子ども達が騒ぎながら作業をしている風景は、変わらなかった。  昨年はまれに見る天候不順だった。この農園ではいつも備蓄をしているからしのげたものの、物の値段があがったり、犯罪が多発した。今年はおそらく、みんな穏やかに過ごせるだろう。 「イエン! 来て!」  納屋のほうからオジカの声がする。一昨年、ナギが嫁に行き、今ではオジカがみんなの母親代わりになっていた。 「どうした?」  オジカが顔を向けた先には、男の子がぐったりしていた。泥にまみれた手足。こけた頬。ここに初めて来たときの己を思い起こさせた。鼻の前に手をかざす。息はある。 「よく来たよく来た。よくここを選んでくれた」  わらわらと集まってくる子どもの一人に、水を持ってくるよう頼む。両手で大事そうに湯のみを持ってきてくれた子の頭をなで、イエンは男の子をそっと抱え起こした。乾いてかさかさになっている唇を少し塗らす。気がついてくれたようで、まぶしそうにこちらを見上げていた。 「水だ。飲めるかい?」  男の子はうなずくと、なんとか自分で湯のみを持ち、水を飲み始めた。  オジカがてきぱきと他の子どもを指示して、男の子の寝床を用意している。この子がもう二度と暗闇を歩かないで済むように。  それが、先生の願いだったから。
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