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コタローの不安
大きな鎧のマッチョなモンスターのふりをしているが、中身はただの骸骨なのだ。
自分の姿が偽りであることがわかれば、きっとお城を追放されてしまうだろう。
だからコタローは、人前で鎧を脱がないように徹底した。
食事は皆が食べ終わって誰も居なくなるまで待ってから残り物を食べたし、お風呂も一番最後に独りでこっそり入った。
そんな彼の様子に同僚たちが興味を持ったのは言うまでもない。
「おい、コタロー。新入りだからって遠慮するな。食事も風呂も最後じゃなくていいんだぞ? たまには一緒にどうだ?」
「いえ、僕は最後で構いません。ついでに片づけや掃除もした方が気持ちがいいんですよ」
それは鎧を脱がない為の口実だったが、事情を知らない同僚たちから見ると「謙虚で皆が嫌がる片づけや掃除まで進んで行う感心な新人」だったようだ。
彼は真面目な勤務態度で皆から可愛がられた。
その評価は魔王の親衛隊の耳にも入って、ついに彼は親衛隊の隊長から直々に声をかけられるようにもなったのだ。
「なぁ、コタロー。お前がここで働くようになってだいぶ経つが、誰もお前の素顔を見たことが無い。どんな顔をしているのか見せてくれないか?」
「隊長どの……申し訳ございません。僕は皆様にお見せできないようなブサイクなのです」
「そうだったのか。いいか、コタローよ、男は見た目では無いぞ。大切なのはマッスルだ!」
隊長は元気よく力こぶを見せて笑いかけた。
きっと隊長は彼を慰めたつもりなのだろう。
だが、それを聞いたコタローは、上の空で力なく頷くだけだった。
(大切なのはマッスル……そうだよな。やっぱり親衛隊になりたかったら、たくましくないとダメなんだな……)
骸骨の自分が親衛隊になることはやはり無理だったのだと、コタローは鎧の中で密かに涙を流した。
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