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講師のお仕事が二ヶ月ほど続き、七月に葵祭りは行われた。
私が教えた一、二年生の女の子たちは、華やかな郷土衣装を身に纏いながら、町内の大通りを練り歩く。私もかつて踊った道で踊っている。
雷の使いの鳥を呼び込むための舞い、その意味はまだあの子たちは深くはわかっていないだろう。私が教えた踊りを必死で踊っている。なかなか覚えられなかったアヤメも今日は振り付けが飛んでいない。みんなのリーダー的存在のイチカは今日も先頭で堂々と踊っている。
たかだか二ヶ月の週末に教えただけの私は、「大丈夫かな」「うまくできるかな」と我が子のことのようにハラハラしながら歩道から見守った。
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「マイカ先生のおかげでウチの子も無事に踊ることできました。幼稚園のお遊戯もできなかったアヤメが、雷踊りなんてできるか心配で心配で仕方なかったんですけど……本当に先生のおかげです」
踊りのあと、私はアヤメのお母さんに御礼の挨拶をされた。私は急に頼まれただけで、
「私なんて全然大したことをしていないです。アヤカちゃんが頑張ったからですよ。涙を浮かべながらすっごく頑張ってて、こっちもしっかり教えなきゃって、本当にこちらこそありがとうございました」
「いえいえご謙遜なさらずに。私は結婚してからこの町に来たんですけど、この伝統、本当にいいですね。こうやって育っていくんだー、って感じました。このままこの町で育てたいって思いました」
こうやって育っていく……、その言葉が妙に頭の中に残った。アヤメのお母さんはどんなつもりでその言葉を言ったのかわからない。
でも、なんだか不思議とその言葉は印象に残った。
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