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実家に戻ったからといって、急に仕事が沸いてくるわけでもなく、引越し業者の人が届けてくれた荷物を解体することぐらいしかやることはなかった。
広めの洋室だったはずの私の部屋は弟に奪われてしまっていたので、少し狭い和室が私の新しい部屋だ。洗濯機や冷蔵庫は処分したので、荷物のほとんどが服と本などだった。
ほとんどが東京で買ったもので、四年間の成果として持ち帰れたものはこれだけなのかと思うと、四年の月日がどこか空虚なものに思えてきた。
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ある程度、荷物を出し、ダンボールを何個も解体し終えた後に、私は散歩に出ることにした。
この町、蔵本町は海沿いの町で、歩いて数分のところに防波堤がある。
その防波堤沿いを歩いていると、少し肌寒い海風が吹きつけてきた。
そんな風が吹いているというのに、私はわざわざ防波堤のコンクリートに登って歩いてみた。幼い頃から数えきれないほど歩いたコンクリートの上は、予想どおり風が冷たかった。
ぼんやりと海を見ながら歩いていると私の隣でグレーのコンパクトカー(なんて車種だっけ)がゆっくりと止まった。信号もないのにどうしたんだろうと思うと、車のウィンドウがゆっくりと降りる。
「……もしかして、真依香?」
急に名前を呼ばれて一瞬、思考回路が止まる。「え?」と思わず声が漏れる。
運転席から見える茶髪の女性の顔を見て、記憶が巻き戻る。セーラー服を着たあの子の顔にリンクする。
「あーみん!」
小学校、中学校時代の同級生に名を呼び、思わず私は防波堤から飛び降りて車に駆け寄った。
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