9人が本棚に入れています
本棚に追加
*
蔵本町に戻ってきた初日に同級生とばったり会えるなんで思いもしなかった。柴崎亜由美(通称・あーみん)は同じ小学校、中学校だったが高校が別々になったので、高校以降は何度か会ったぐらいで、ずっと疎遠だったのだけど、
「よく私のことがわかったね」
って言うと、
「なんか知ってる顔な気がするなぁって思ってたらマイカだったんよ」
防波堤沿いの道をウチまで車に乗せてくれたあーみんは言った。
大学を卒業して久々にこの町に帰ってきたけど、久しぶりすぎて誰とも連絡取ってないんだと話すと、あーみんが今でも繋がる中学の同級生を集めて、飲み会をしてくれることになった。
*
週末の夜に指定されたのは、市街の裏通りに面した場所だった。
私は弟の車で送ってもらい、そこに到着すると、すでにあーみんはいて他にも三人の女子たちがいた。
「わー、本当にマイカだ!」
「すっごい久しぶり! 私のこと覚えてる!?」
「めっちゃ垢抜けてるし!」
みんな誰なのかがはっきりわかった。みんな大人になってるけど、間違いなく私の同級生たちだった。
懐かしくて泣いてしまいそうだった。
「じゃあ、どこ行こっか」
「夏吉は?」
「あそこ改装中じゃん。サウスストックとかは?」
「混んでそうだなー。あそこ週末は予約せんと」
みんなの会話に全く入っていくことができなかった。
ああ、そうか私だけみんなと「違う」んだ。中学まではこの町でみんなと一緒に育ったけれど、私だけこの町で「大人」だったことがないんだ。
私は地元なのに、この町育ちなのに、地元でお酒が飲めるお店がわからない。
「新宿とか中野ならわかるんだけどな」と思いつつ、そんな知識は役に立たないんだということが思い知らされた。が、経験ないんだから仕方ない。この町の大人初心者として今日はあーみんたちにお任せすることにした。
最初のコメントを投稿しよう!