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バイトにはあっさり慣れることができた。
慣れるのはいいんだけど、そのせいで全く就活が動かなくなってしまった。週に5回も6回も働いていれば、それはそうなるわけなんだけど。
実家に少しお金を入れていれば暮らしていけるので、困ることが本当になかった。
毎日自転車を片道ニ十分も漕いでいるのがしんどいので、車でも買いたいなぁとは思うけれど、田舎道であれ自分の運転に自信はない。
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春が過ぎて、防波堤に吹いていくる風も気持ちがいい季節になって、まったり生きていくにはちょうどいい季節になった。
小学生の頃はこんな場所を歩いているとよく怒られたが、大人になったいまは怒られるはずもなかった。
そんなことを思っていると、
「ちょっと」
と下から声をかけられた。
え、私、誰かに怒られるのか? と思っていると知っている顔だった。下から声をかけてきたのは、スーパーのバイトで一緒に働く溝口さんだった。
「マイカちゃん」
「あ、どうも、こんにちは」
名前を呼ばれて小学生みたいな挨拶を返してしまった。
「マイカちゃん、貴方って、今度の週末って時間空いてたりする?」
「え?」
平日週5のバイトをしているので、土日は基本的に私は空いている。私がいなくても高校生や大学生のバイトが揃うので、よっぽどのことがない限り、私が呼ばれることはない。
もしかしたら誰かの代わりにバイトに入ってくれないかって話かなと思っていると、溝口さんは予想もしないことを言った。
「貴方って雷踊りをやってた子かしら?」
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