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2.宮廷”雑用係”
「やあ、そこの彼女。気分はどうだい」
アクトは、床に膝をつき身をかがませてソファの下の暗がりに声を掛けた。
王妃は飼い猫のウルが何処に行ったか分からなくなり、アクトを呼んだがアクトは瞬時にソファの下のウルを見つけた。
「良かった。ありがとうアクト」
「いえ。また何なりと。私は宮廷”雑用係”ですから」
「皆、アクトに頼り切ってるのに雑用係なんて呼んで。恩知らずだわ」
ダイアナが、むくれて言った。
ここはダイアナの部屋。子供の頃の約束通り、アクトはダイアナが15歳を迎えたのを機に魔術を教えている。窓際にテーブルを挟んで座り、魔術理論の講義中だった。
「まあ、そうおっしゃらず。私の様などこの馬の骨とも分からない者を王宮に置いて頂いているだけで身に余る光栄でして。陛下には足を向けて寝られません」
そう言って、アクトは微笑んだ。
ダイアナは、肩を竦める。
「アクトは優しすぎるわ」
「それは申し訳ございません」
「いえ、謝るような事ではないけれど……」
「はあ」
「ねえ、これってどういう意味?」
ダイアナは、教科書の一部を指差し、アクトに近付けた。
「ああ、これはですね」
両者の顔が不用意に近付き、目を合わせてどきりとした。
「ゴホンッ!」
壁際にいる年配の侍従が存在を強調する様に咳払いした。彼は、二人が間違いを犯さないように見張っている。
ダイアナとアクトは、顔を離した。
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