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4.お見舞い
「きっと試食の料理にあたったんだわ。何でもかんでも引き受けるからこうなるのよ!」
ダイアナは、侍女と共に寝込んでいるアクトの見舞いに来て、思わず苦言を呈した。
アクトは、よろよろと起き上がる。
「わざわざ見舞いに来て頂いて」
「寝てていいから!」
「はあ」
アクトは大人しく横になった。まだ顔色が悪かった。
侍女が持って来た薬をテーブルに置く。
「医師からの追加の薬です。足りない様であれば、お使い下さいと」
「ああ、これはかたじけない」
ダイアナは、もどかしく思う。
「魔術でぱっと治せないの?」
「姫殿下、魔術はぱっと使うものではありませんよ。教えたでしょう?」
「……人外の力をむやみに使うものではない、でしょ?」
「使い過ぎると術師の身体に障ります。こんな平和な時代に魔術の使い過ぎで体壊したら本末転倒ですよ」
「それはそうだけど」
ダイアナは、ベッド横に置いてあった椅子に座った。髭面でぼさぼさ頭のアクトを見て、愛しく微笑む。
「先生、良い男が台無し」
ダイアナが、アクトの頭に手を伸ばした。アクトは慌てて言う。
「姫殿下、御手が汚れます」
「そんなことないわ」
「そんなことあります。風呂に入っていないですから」
「そうなの?」
「髪の毛なんか、べったべたのギッタギタです」
ダイアナは、むしろ嬉しそうな顔をする。
「私が洗ってあげましょうか。自分で洗う元気ないでしょ」
アクトは、目を丸くする。
「いや、いやいやいやいや」
「そんな遠慮しないで」
「いやいやいやいや。だめでしょそんなだって、必然的に裸に」
「恥ずかしがることないわ」
「お目汚しになりますって」
「そんなことないわよ」
「姫様」
侍女が厳めしい顔で睨んだ。
「はしたないです。お父上に言いつけますよ」
ダイアナは、黙り込んだ。別人の様に暗い顔をすると、そっと呟く。
「一人で来ないと先生のお世話も出来ないわ」
聞き取ったアクトは、困った様に微笑む。
「姫殿下、お立場を」
「冗談よ」
ダイアナは、立ち上がると、むすっとして言う。
「早く良くなって下さい。先生」
「善処します」
「お大事に」
ダイアナは、潔く帰って行った。
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