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夕食を済ませると、ヴァレリーは普段使っていないクローゼットの中を整理した。
あった。段ボール箱の中に、探していたスケッチブックがあった。それを持って寝室のベッドに腰かけて、ヴァレリーはやや色あせた紙をめくっていく。
カイルが描くのは主に動物であった。砂漠を歩くペンギン、ペットボトルを咥えたサメ、軍服を着たオランウータン……。子供だったヴァレリーには当時分からなかったが、カイルは社会問題の風刺を表現してきたのだ。
アツシや子供たちには、彼は病気で亡くなったと伝えていた。しかし本当は違う。精神を患ったうえ失踪したことは、母と二人だけの秘密にしていた。
スケッチブックには、若い母と幼いヴァレリーの姿もあった。当時、保守的な新聞社の記者だった父はカメラより、鉛筆で描き残す事を好んだ。
その中に、戦車を壊す逞しい象の姿があった。作風は流行に近づいたものの、その力強いデッサンはペンキで描かれた荒ぶる象と重なる。
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