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ヴァレリーは先程、そのストリートアートの実物を見てきた。場所へ案内してくれた市長が言うには、界隈では名の知れた男の作品らしい。
『パレットさんはこの絵が気に入りましたか。彼はブラッドといってこの町では古株だ、顔も素性も隠した謎のアーティストでね。ちょっと政治的には刺激のある絵を描くので困ったものですが、大した人気ですよ』
古びたレンガの建物に、怒れる象の絵はあった。雨露にさらされて、描かれた頃よりずっと時間が刻まれているに違いない。
『あの下にある二匹の白い鳥は、どういったサインですか、写真で見た他の作品にも、鳥が書かれていましたが』
走り書きに見える線画をヴァレリーが指さす。すると、市長は勿体ぶるように知識を披露してみせた。
『あれはブラッドの署名みたいなものです』
それが分かると、描いたきりの置き去りに見えた作品には、ブラッドの愛情が感じられた。
なんて、野ざらしの似合うアートなんだろう。象の赤い瞳を見つめながら、ヴァレリーは複雑な感情が入り乱れたものだった。
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