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さらに記憶は過去にさかのぼる。まだヴァレリーが子供の頃は、両親の愛情に包まれた穏やかな家庭で育っていた。
『ねえ、どうして絵ばかり描くの』
『鉛筆を握っていると落ち着くんだ。タッチウッドした時みたいにな』
『そうなんだ』
『それにカメラは真実を映すが、見たくないものまで見えてしまうからな』
『どんなもの? ハロウィンの幽霊が写ったりするなら見てみたい』
『面白い、それはきっとトップニュースになるな。ヴァレリー』
そう言って、カイルはふと真顔に戻った。
『深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている』
『なに、それ』
『ニーチェの言葉だ。お前には必要ないが、覚えておくといい』
頭を撫でてくれたカイルの、ごつごつとした手は今も忘れない。家にほとんどいなかったが、父は家族といる時間を大切に過ごしてくれた。
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