止まり木

　白かったはずの床には、たくさんのクレヨンの花が咲いていた。赤、青、オレンジ、紫……大きいものから小さいものまで、たどたどしい線で描かれている。花はくるくると巻いた緑のつるで繋がっていて、葉っぱが賑やかにあちこちを向いている。

　片付けを思うと力尽きそうだ。脱力したその時、ヴァレリーの服の袖を小さな手が引っ張った。

「ごめんなさい、だって描きたかったんだもの」

　斉唱するようなセオドアとエラの声に、ブラッドの描いた象が咆える姿が蘇った。ストリートアートに満ちた，あの突き抜けるような衝動。何となく生まれたのでなく、生きる力にみなぎった疾走感。

　幼い手は今、カイルと同じ才能の原石を握りしめている。

　ヴァレリーは降参し、床に散らばったクレヨンを拾い上げ、子供たちの手の中に戻した。