止まり木

17/21
前へ
/21ページ
次へ
「床はね、ちょっと困るのよ。みんなの場所だから。ちゃんと画用紙に描こう、あとで消すのを手伝ってちょうだい」 「ダディ、マミィ。ごめんなさい」  子供たちにクレヨンやおもちゃをしまうよう背を押す。  足元に転がる木製の車を拾おうとして、軽く指で叩いた。 「タッチウッド」 「このおもちゃは、君のお母さんのプレゼントだね。孫たちに幸せになって欲しい。お父さんの分まで、そう思っているんだろうな」  真実を知らなくとも、アツシは分かる範囲で心を汲んでくれる。  ヴァレリーは、彼の両手を握りしめ頬を緩めた。 「私、シナモンティーを入れるわね。後片付けはそれからにしましょう」  今の自分には家族を守ることができる。だから過去を変えられなくてもいい。カイルを救えなかった、幼い頃の自分を許そう。  手に残ったアツシのぬくもりを確かめ、ヴァレリーはクレヨンの花畑に足を踏み入れた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加