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◇ ◇ ◇
数日後、ヴァレリーは車を走らせロンドンを離れた。
海沿いのシティの空は、鮮烈な青と白がせめぎ合っていた。曇りがちなロンドンとは違う。からりとした気候は、人の心まで陽気にさせるのかもしれなかった。
市庁舎の一室に呼び出されたヴァレリーは、心の中で聴覚の音量を下げた。ラフに編んだ髪が、かえって美貌をくっきりと引き立たせるとよく知っている。話の切れ目を見つけたところで、ヴァレリーは薄い唇をようやく開いた。
「市長。つまり私に、この提案を支援してほしいということでしょうか?」
「そういうわけです、パレットさん。あなたは、ニュースキャスターとして幅広い世代から賛成を集められる人気がある。いいですか、これは好機なんです」
力説する市長の声は、一段とトーンが高くなった。まるで、生きた拡声器ね。やけに濃い眉にも目が行く。注目を集めたい計算なら上手くいっている、したたかな男だ。
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